涙の海に沈む





名前が学校に復帰して1週間が経った。彼女は何時も通りに授業を受けて、弁当を食べて、端から見れば記憶喪失なんて嘘みたいだった。しかし、決定的に違う点がある。いつも浅井と2人で行動していたが、今は違うメンバーと行動をともにしていた。なんとも異質な光景だ、と誰もが思っていたが、誰も口には出さなかった。浅井のことを思ってだろう。







「名前、今日も送ってく」
「え…」
「いやか?」
「ううん、違うの、なんか悪いなって」
「好きでやってる事じゃ、気にしなさんな」






名前はお言葉に甘えて、と言って荷物を持つ。ふった相手の誘いを断らない、やっぱり記憶が無いのだと思った







.



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「あれがこの辺りで一番大きな本屋、あれがイトヨ、見覚えないか?」
「うん…街とか、全然思い出せなくて」
「…そうか…」
「…………あ……」
「なんじゃ?」







ぴた、と名前の足がとまる。振り返ると、一点を見つめる名前。俺もそちらに目を向けると、そこには遊園地の観覧車があった。






「…あの、観覧車は…」
「ああ、すぐそこに遊園地があるんじゃ、結構大きいやつ」







あの遊園地は俺と名前が初めてデートといったものをした場所だった。ジェットコースターが嫌だと名前が騒いだのをよく覚えていた








ぽた









「………え?」









一瞬心臓が止まりそうになった。名前はぽた、と一滴だけ、涙を流したから。名前は「あれ、なんでだろ」と言いながら涙を拭った







「……おまえさん、」
「ごめん、ごめんね、なんか、すごく懐かしい感じがしたの」










キシ、と胸が痛んだ。ああ、別に記憶が戻ったわけじゃなかったのか。期待して損した。







「…いくかの、」
「…うん」




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