はじめまして
今日は名前が学校に来る日だった。俺は柳に頼んで、学年中のやつらに、俺が名前の元カレだったことを名前に言わないようにと念を押してもらった。
「よっ、仁王」
「ああ、ブン太か」
「聞いたぜ、名前に元カレだったこと隠すんだって?なんでたよい」
「言っても意味ないじゃろ」
「もしかしたら思い出すきっかけになるかもしれねーじゃん」
確かにそうだった。俺は自分を庇っているだけだった。伝えて、思い出さなかったら、きっと俺は傷つくだろうから。それだけじゃない、きっと名前も傷つく。
「ま、いろいろじゃ。ブン太も口滑らすんじゃなかよ」
「へーへー」
気のない返事をするブン太を眺めていると、廊下から声が上がった。そちらに目を向ける。どうやら名前が来たようだ。
「名前―!大丈夫?」
「ね、私のこと覚えてる?」
「私は私は?」
女子たちの質問攻めが始まった。まるで転入生の初登校のようだった。
「覚えてるよ、愛ちゃんに、なのかちゃんでしょ、」
これは本当だ。名前が忘れてしまった女子は、ただ一人。親友の浅井晴香だった。彼女にはもう名前の事故の全容を伝えてある。彼女は、動揺を必死に隠しながら、「わかった」と言っていた。いま、浅井は教室の隅に座り、質問攻めされている名前にやさしい目を向けていた。
「おまえさんも、名前のとこ行かなくてええのか」
「…いいの。私は、あの子が思い出すのを待ちたい」
彼女はどうやらまだ希望を持っているようだった。それだけ、彼女は名前に対する愛情が強かったのだろう
「…仁王君!」
「おー、おはようさん」
「おはよう、…そっちの子は………晴香、ちゃん?」
「ああ、そうじゃ 」
「おはよう、名前」
「おはよう!」
きっと名前は前もって浅井の名前を覚えてきたのだろう。本当に気遣い屋だとおもった