少しだけだけど




「…くしゅ!」
「…ごめん」






朝ごはん。なんだか今日のはやけに味がしないというか、感じられないというか。だって千歳が隣で私をじっとり睨んでくるのだから。まあ、蹴り落としたのは悪いと思ってるけどさあ…










「なんや千歳、風邪か?」
「んーわからん」
「気ぃつけや、今日もまだ練習残ってるんやで」
「男装時に言ってほしかね」






白石君の忠告を聞きながら私の方を睨んでくる千歳。やけに引きずるなコイツ。










「苗字」
「ん?」
「今日、昼ごはん食べたら部屋の点検頼むな」
「あ、ああ。わかった」







そっか。もう今日で合宿終わりなんだっけ。短かったような長かったような。私と白石君の仲も少しはかわったかな














「…深くなってはないだろうな…」
「ん?今なんか言ったか?」
「別に」






謙也がむしゃむしゃシャケを食べている。なんだか謙也の何もわかってなさそうな顔を見ていたら、やけに眠くなってきた























「二度寝はあかんで!!」

「ふあ?」











うお、寝てた。ご飯食べて、練習始まる準備の間にベッドにごろんとしたら、どうやらうとうとしてしまったらしい。なんだかんだで疲れがたまってるのかな










「…ん…今起きるから」
「もうコート移動するで」
「ん〜…」








白石君の呆れた顔が目に入る。うう、起きなくちゃ、起きろ自分。









グイっ










急に体が宙に浮く感覚がした。同時に脇に何かを感じる。どうやら白石君が私の脇に腕を通して、体を持ち上げた模様









「わ、わあ!」
「コートいくで!」
「ちょ、ちょっとまった、やめろ、離せって」
「じゃ、はよ起き!」
「お、起きる、起きるから」













なんとか白石君の腕から脱出して、服を整える。も、もう少しで白石君の手が胸に当たるところだった。まあ、まな板なんだけど。一応ね、一応。それにしても、こんなに白石君の近くにいられるのは合宿だからなんだよなあ。なんだか少し合宿終わるの寂しいかも。下心見え見えだね














「………」








練習が始まった。私は昨日干した服を取り込んでたたんで仕分けをしていた。傍らにタオルとドリンクを置いて。そして目の前には必死でボールを追いかける皆の姿。うーん、暇だなあ…












「…あ…」






ふと見つけたのは、白石君のタオル。端に女の子の名前が書かれている。…妹さん?お姉さんかな?










「…私って白石君のこと何にも知らないなあ…」

「ほな、ついでに俺のこと知ってみるか?」

「うん…って、え?」








振り向くとそこには関西弁の丸メガネ、










「…侑士君…」
「はは、なんやビックリした顔して」
「びっくりするよ、急に声かけんなよ」
「それにしても、自分そないに男のタオル抱きしめとったらアカンで?」
「え」










わ、

無意識で白石君のタオルをギュウ、と抱きしめていた私。恥ずかしい!









「う、ううううっせえよ!」
「言葉づかい悪いでえ」
「…何の用?」
「タオルもらいに来ただけやって」
「…はい、ドーゾ」
「ありがとさん」









侑士君はにっこり笑うと、私から受け取ったタオルで汗を拭っていく。いまいちつかめない人、何考えてるのかな












「自分、ほんまにがんばるなあ」
「…何が?」
「つらくないん?男のフリするの」
「………」
「白石のこと好きなんやろ?」
「…な…っ」
「はは、顔赤くしてかわいらしいわ」
「からかうんじゃねえよ」
「すまんて。ま、俺は自分のこと応援しとるから」
「…いらねえし」
「ほな」








そういうと侑士君はタオルを置いて私の傍から離れて行った。その背中を眺めていると、白石君が試合を終えて、一息付いている姿が目に入る。タオル、渡さなくちゃ…














「白石君!」









私の声で白石君が振り向く








「お疲れ様!これ、使って」
「……」
「…?なんだよ、タオルいらねえの?」
「…いや、今、苗字がタオル持ってきてくれるんやろなって思っとって…」
「え…」
「なんや合宿で、練習後にはお前がタオル持ってきてくれるって習慣になってもたらしいわ」
「…そ、そか、」
「ありがとうな、お前がタオル持ってきてくれると安心するわ」
「……ん」







私は顔を上げることができなかった。上げたら私の顔が真っ赤なことがきっと白石君にばれてしまうから。でもどうやら、私と白石君の仲は少しだけ深くなったようです








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