最後に、あなたに
こんなわがままで親を悩ませたのははじめてだった
「う〜ん…転校はいいけど……男装………」
「お願いお父さん、そこをなんとか」
「あらいいじゃない、四天宝寺でしょう?あそこの理事長とは顔見知りだし」
「お母さん…!」
ひどく悩むお父さんとは逆に、お母さんは快い返事をしてくれた
「でも男装だぞ?このかわいい名前が!」
「社会勉強にもなるでしょ、あなたの溺愛のせいでこの通り世間知らずの箱入り娘になっちゃったしね」
「そ…それは」
「いいじゃない、ばれずに終えたらラッキー。ばれたらそのときは、世間の厳しさでも思い知ればいいわ、この子のためよ」
「お…お母さん…」
少し怖くなった。でも意志は曲げない
「………わかった。しかし名前、ばれたら大人しく今の学校に戻るんだぞ?高校生はもちろん、今の女子校の高等部だ。いいかい?」
「え…いいの!?」
「少し自力する力を養ってきなさい」
「…や、やったあ…!」
私ははれて四月から四天宝寺中学に通うことになった、お母さんお父さん、本当にありがとう!
「じゃ、すぐに理事長にかけあわないとね、あんた学校見学にでも行ったら?」
「うん!」
「あ、男装するなら髪を切ったほうがいいんじゃないか?」
「まだいいよ、私、一回女の子の姿で白石君に会ってみたい」
私はこれから男になる。女の名前はもう消えるの。だからその前に、
どうか本当の私を白石に見てもらいたい
.
.
ブロロロ..
「もうすぐですよ」
「案外近いんだね」
「見えてきました」
執事の木村さんの運転する車に乗り、私は四天宝寺中学にやってきた。わあ、でっかい門。私の学校はキリスト教で洋風の造りだったから、この和風の造りに驚いた
「さ、お嬢様、いきましょう」
「木村さん、私、1人でいけるわ」
「…え…ですが」
「お願い、1人にしてくれるかな」
「………かしこまりました」
木村さんを説得させ、私は1人で門をくぐった。なかなか広い学校で、迷いそうになった。私はなんとかテニスのボール音を頼りにテニスコートを捜し当てた
「あった…!」
パコン、と響く音に新鮮さを感じた。みんなすごく頑張ってる、本当に凄いなあ。テニスコートを見回すと、一人目につくひとがいた。…………あれは…
.
.
「はあ〜疲れた。にしても白石、なんやねんこの記事」
「なにがや」
謙也はだるそうにこの間取材を受けた月刊プロテニスをバシバシ叩いた
「なにが“女の子は苦手で”や!笑えるわ」
「ほんまのことやろ。もうあのファンクラブだかにはうんざりや。それに、そうでも言わへんとまたラブレターくるやん」
「お前…心のそこからうざいわ…」
睨んでくる謙也を連れて、俺は水道へ向かった。コートの周りにいるファンクラブの子、ほんまに騒がしいなあ。
「…あのっ」
声がした方を振り向くと、異色な子が立っていた。この制服…確かどっかの名門女子校の制服や。めっちゃお嬢様の。彼女をみると、ふわふわの髪の毛にかわいらしい顔、爪の先まで綺麗にととのえられた、いわゆるお嬢様やった。にしてもえらいかわいらしい子やなあ。一体なんの用やろ
「あの…白石君、私あなたのファンなの」
「へ」
「ずっとずっと、月刊プロテニスみてました」
「あ…そうなん?ありがとうな」
「もう、この姿でいられなくなるから、最後にと思って」
「へ?」
「私、ずっと応援してます。あなたがテニスしてるのが好きなんです。頑張って」
彼女はそれだけ言うと、再び背をむけて、走っていってしまった
「なんなんや今の子…」
「白石!めっちゃ大胆な子やったな!お前のファンやて!しかもかわいい…」
「…ああ……せやな」
俺は彼女が走っていった方から目を話せなかった。なんて、素敵な女の子なんだろうと、思ってしまった。それに少し、発言にも疑問が浮かぶ。この姿ってなんや?意味深や