無理です


掃除洗濯ドリンク作りにタオル配り、ボトルの回収タオルの回収、球拾い球磨きコートの掃除、私はやれるだけのことをすべてやった。それはもうひたすら。余計なことを考えたくなかったから









「苗字はよく働くな」
「そうですね、優秀なマネージャーですね、彼は」





とかなんとか、真田君と柳生君がぼやいているのが耳に入る。優秀、かあ。ちょっと嬉しい…。そうこうしてるうちに、今日の練習も終りを迎える。皆がぞろぞろと戻ってくるのを、タオルを持って待ち構える。一番に、白石君のところにいきたいんだけど、さっきのこともあって少し気まずい。でも、いきたい、なあ













「…白石、君」
「あ、苗字、目大丈夫か?」
「お、おう!余裕!」
「タオルもらってもええか?」
「はい!」









白石君が笑顔でありがとう、と言ってくれる。それだけで私の心は満たされた。そんな気持ちを心にしまって、私は他の人にもタオルを配る










(がんばれ、自分)























「はー疲れた!」





ばふ、と謙也がベッドにダイブしてホコリが舞う。皆はこれから、風呂に入る。私は少し後に入るつもりだったので、着替えて食堂に行こうとした








「…男装時!」
「ん?何?謙也」
「今からどこ行くん?」
「あー、えっと、食堂に夕飯の準備しに」
「…なあ、夕飯の準備なら従業員の人に任せればええんちゃう?」
「え」
「一緒に風呂いこうや、男装時も汗かいてドロドロやろ」
「あー、えっと、その」









まさか風呂に誘われるとは思ってなかった。風呂なんて入ったら、一発でバレるし。無理に決まってる。どうしよう、なんて言おう。近くに千歳がいたけど、極力目を合わせないようにした。だってこれ以上頼りたくないんだもん











「あの、」








とにかくなんとか言い訳をしようとした瞬間、後ろから襟をつかまれる








グイ!






「おわ!」







誰だと思い後ろを向くと、そこには眉間にしわを寄せた跡部君だった













「あ、跡部、君」
「さっき呼んだだろ、おせえよ」
「え」







そのまま跡部君に引っ張られて私は部屋の外に出る。謙也も千歳も白石君も、なんだと目を丸くする。ていうか、呼ばれてたっけ、私






「ちょ、離せよ、なんだよ急に」
「これ使え」
「…?」






つきだされた袋を手にとり、恐る恐る中を覗き込む。その中には、…茶髪のウィッグ…










「…な、に、これ」
「お前の正体はわかってんだよ、お前、苗字グループの令嬢の苗字名前だろ」
「は」
「お前の親父が俺んとこの親父に言ってきたんだよ、娘が今度合宿に男として参加するからよろしく、ってな」
「な、なにそれ、私聞いてない」
「だろうな。ま、それつけて女風呂に行けよ。俺様が許可してやってんだ、素直に行け」
「……お父さんが…」











まさかお父さんがそんな配慮をしてくれていたとは知らなかった。ていうか、






「ねえ、じゃあ合宿の前から俺が女だって…知ってたのか?」
「ああ、まあな」
「…じゃあ、昨日の…」
「はっ、安心しろよ、てめえの裸なんか見ても興奮しねえよ」
「な…!」
「早く行けって、そこのトイレでさっさと着替えろ」
「……あ、ありがと…」




大人しくトイレに入り、ウィッグをつける。懐かしい、昔の自分がよみがえる。あ、今度は男装時ってばれちゃいけないのよね、なら眉とらなきゃ。すると私は完全に以前の自分に戻る










「…………女の子だあ…」








て、感傷に浸ってる場合じゃない。ここから風呂場まで行かなくちゃいけないんだった!










.



.






「あーいらつく!」
「謙也さん、うるさいっス」
「なしていらついとっと?」
「だって…!」







せっかく男装時と風呂はいれると思たのに!跡部邪魔や!…とは言えず俺は口を閉じる。結局この合宿、あいつと風呂入ることなかったなあ…。ってまた俺変なこと考えとる!あかん!















ドン!











頭を抱えながら歩いていたら、つきあたりで誰かとぶつかった












「きゃっ」
「わ、す、スマン」









相手が少しだけよろけた。てか、女の子やん!この別荘、女の子なんておったん?










「…ご、ごめんなさ…」









彼女は顔を上げて俺たちを見た途端、ぐり、と顔をそらした。なんや?…てかこの子、どっかでみたような…












「なあ、前どっかで会わへんかった?」
「え…」









その瞬間、彼女は誰かの腕につかまれて後ろへとよろける。あ、跡部やん











「わ…っ」
「何してんだよテメーら」
「跡部、その子知り合いなん?」
「…ああ、こいつは俺のイトコだ」
「イトコ?」








イトコやったんか。さすが跡部のイトコ、めっちゃかわええなあ










「ほら、いくぞ」
「う、うん」
「あ、ちょお待ち!」








そのまま二人は俺を無視して風呂場の方へ行ってしまった。…ていうか、あの子、どっかで見たような…見たことないような…










「…ふっ」
「ん?なに笑てんねん千歳」
「んー?なんでもなかよ」
「…なんなん?」









皆おかしいわあ


























「このあほが!」
「ご、ごめんなさい」
「なんでよりによってあいつらとぶつかるんだよ」
「だって…」









今、風呂の前で跡部に叱られている。私悪くないのに…。ていうか、謙也に見られちゃった!しかも財前君と千歳まで!千歳なんて私のこと見た瞬間笑ってたし!














「…早く風呂はいってこいよ」
「うん」
「もう誰にも遭遇するなよ」
「……・……」








いや無理だって



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