いらいらする



「大丈夫?」







目の前にはでかい男。くそ、こうやって決心を固めた瞬間なんで現れるんだよ!











「…千歳…ついてくんなよ」
「…大丈夫そうじゃなかったけん」
「え…」









そういえばさっき、千歳が私に抱きついてきたのはなんでだっけ?確か、私がすごくへこんで…






「あ…」
「ん?」
「なあ、さっき…かばってくれた?」
「…」
「ほら、俺さっきベソかきそうになってたし…」
「…少しは世間の厳しさはわかったとや?」
「………」
「名前はどこまで行っても女。それは変わりようのないことばい。お前さんが女として白石と仲良うなることば望んどるんなら、男装なんてうまくいくわけなかよ」
「…名前じゃない…」
「え」
「俺、名前じゃない」
「……」
「やっぱ心のどこかで、女として白石君と仲良くなりたいって願望があるんだよな、きっと。でも白石君は女は苦手だって言うし。…それにそんなんじゃここに来た意味が全くない」
「名前、」
「もうその名前で呼ぶなよ。俺は男装時、男だ」







そもそも少し千歳にも頼り過ぎてたんだよ、きっと。もう頼るのはこれっきりにしよう。俺は男。男なんだから。男が男にすがりついてどうするんだよ










「…じゃ、俺戻るから」
「………」





















それから昼御飯が終って午後練がはじまる。あたしはひたすら仕事をして、何かいろいろ忘れようとしていた。とにかくひたすら動き回って、夜にやるはずだった洗濯たたみもすべて終わらせた。








「…ふう、」







今日は夕焼けがすごい。燃えるような空の下私は皆が帰ってくるのに備えてタオルの準備をする。本当に綺麗な夕焼けだな。…涙が出る












「…苗字?」
「……あっ、白石、君」
「…どないしたん?目…」
「あ、いや、ちょっと目にゴミ入っちゃってさ」
「大丈夫か?」
「うん!それよりお疲れ」
「あー、おおきに」






白石君にタオルを渡すと、白石君は例によって汗を拭いていく。










「…今日、変なこといってすまんかったな」
「…え?」
「…いや、千歳と仲いいなって。なんや変なふうにとっとったから」
「え、いや、あの」
「俺な、お前とあの子のこと妙に重ねてしまうねん」
「あの子…?」
「お前が入学する前にな、春休みだったかな、急に部活に来て、あ、他校の女の子やったんやけど、俺のテニス好きです言うてな、…ほんまにお前と似てん」
「……………」
「ま、そないなこと言ってくれた子は初めてやったし、それ以来姿も見いひんから、幻やったんかなー思て」
「………白石君は…」
「ん?」
「白石君は…その子のこと、好きなのか…?」
「…んー、まあ一回しか話してないからな、でもまあ、気になるっちゃあ気になるわ。現にお前と重ねてもうてるし」
「…そ、か…なんだよ、青春してんじゃん!」
「なんや、そういうお前はどうなん?」
「お、俺のなんて、いいんだよ、別に」
「…苗字?」











なんでそんなこと言うんだよ



なんで今言うんだよ




なんで

なんで

なんで













女の子に戻りたくなっちゃうじゃん













「わ、ちょ、苗字、どないしたん?」
「…ごめ、…ちょっとゴミが…目に…」
「ほら、こっち向いて」
「え、ちょっ」






白石君の綺麗な瞳に私が映る。ねえ、今のあなたに私はどう映ってるのかな、













ほんとはね、私があの時の女の子だよって、言いたかった

















「…ゴメン、ちょっとトイレで目みてくるわ…」
「あ、一緒にいこか?」
「いや、大丈夫。ごめんな」












ポタ



ポタ






白石君に背を向けて歩き出した途端、涙があふれてきた








「…あ、れ。止まんない」






ポタ

ポタ









「…止まんないよぉ…」











「名前!」











「…千歳…」
「ちょ、目…!」
「……お、俺のことは男装時って呼べっつったろ」
「あほ、何いっちょるん」
「………」
「泣きたいときは泣いた方がよかよ」
「……う…」









ポタ
ポタ




「とまんな、い。止まんないよ」
「今は…俺しかおらんばい」
「…う、うあ…っ」












結局私は千歳に頼ってしまうんじゃないか。意志の弱い自分にイライラした




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