かわいいよ







ガチャ







「お、男装時、早いやん」









ギリギリセーフ、だった。私はちょうどパンツを履き替えてズボンのひもを結んでいる最中だった。謙也に見られたら一体どうなる事か













「なんや、着替えとったん?朝、汗かいたんか?」









再び後ろから声が聞こえる。最近わかったことがある。この心地のいい声でもう誰かはわかるんだけど、この、シャンプーのにおいなのか、香水の匂いなのかわからないけど、いいにおいがする人、それは









「…白石君」
「あと30分もしたら練習やで、支度、はよすませな」
「お、おう」









多分、香水だと思う。だって昨日は皆同じリンスインシャンプーを使ったから。その中で、白石君だけ何か心地よいにおいがする。キツくない、かぎたくなるにおい。どこまでも完ぺきな人だなあ。白石君をずっと見ていたら、なんだか胸のあたりがギュッとした。わ、なんだこれ。








「…苗字…見すぎ」
「え、あ、あははっ…ゴメン」








何やってんの私!白石君に見惚れるのは雑誌だけでいいよ!今の私がしたら、ただの変態になるんだから







「…よーし、がんばろ!」







これ以上醜態をさらさないためにも、がんばって仕事しよう仕事!一人で声をあげてガッツポーズしたら、近くにいた白石君が「なんや朝から元気やな」とくすくす笑っていた。あ、また胸がギュってなった


























今日は朝から上機嫌だった。理由は名前のイチゴパンツを見れたから、とでも言っておこうか。







「ふ…、たいがむぞらしか奴ばい」









俺は恋とかにそんなに興味もないし、白石にぞっこんなあいつの邪魔をしようとも思わない。けど、俺だけを頼りにしてくるあいつの姿は、ほんとに、ほんとに











「…むぞらしか」
「え?なんか言った?千歳」
「んーん、何も」
「ほら、見てるならスポドリ作るの手伝えよ」
「はいはい」







男のフリしてる時はやけにツンツンしてるが、やっぱり育ちはお嬢様、女の子に戻るときはほんとにかわいくて、しかもそんな姿が見れるのは今は俺だけ。なんだかとっても優越感。








「名前、水はどげんくらいいれっと?」
「あ!お前また名前呼んだ!誰かいたらどうすんだよ」
「誰もおらんばい、俺そげんあほじゃなかよ」
「……」
「あと、前も言ったばってん、俺の前で男んフリするのはやめるばい」
「…なんでだよ、ボロがでるだろ…」
「いいから」








少し目を泳がせてから、顔赤くしながら、再び作業を続ける名前。…あーあ、顔真っ赤。どっからどう見ても女にしか見えん










「…ごめんね…。なんか、…頼りっぱなしで」
「…別によかよ」








ほら、素直なとこもかわいいんだ。









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