くるってゆく
散歩から部屋に戻ったら男装時は風呂に行ったという謙也。そういえばうまく入れたのだろうか。
「そういえば、やけに遅いなあいつ」
「え」
「もう30分くらい経つで」
「……」
まあ一応女のこだしそれなりに風呂には時間がかかるのか。なんだか心配になったからとりあえず風呂場の入口へ行ってみた
「……」
出てこない。中に入って様子を見るのはまずいか?もう少し気長に待つか、そんなことを考えていたら、風呂からフラフラを出てきたのは男装時だった
「男装時!」
「あ…千歳」
「なしてそんなフラフラしとるん?」
「…ちょっと…のぼせて…」
フラつきながらこちらに目をやる男装時は顔かほのかに赤くなっており、しかも眉毛を描いていたのか、薄く綺麗な眉に戻っていて、どこからどう見ても女の子だった
「ちょ…こっちくるばい、」
「わあっ」
ぐい、と手を引っ張って中庭へと出る。こいつの熱を冷ますのもあるが、こんな姿を誰かに見られたら一大事だ
「引っ張んなよ、千歳」
「お前、眉毛書き忘れてるばい」
「え…あ、忘れてた…」
「………」
男装時はせっせと眉毛を隠そうと前髪を掻き分ける。…かわいい。男装する前は一体どんな感じだったのだろうか、知りたかった
「…男装時」
「んー?」
「…俺ん前では男のフリはするんじゃなか」
「え、どして?」
「……疲れるったい、」
「え、千歳が疲れるの?」
「…はあ」
「なんだよ、溜息ついて」
「…名前」
「…え?」
そのとき千歳の大きな胸に自分がおさまったのがわかった。…だ、抱きしめられてる!
「…名前おしえて…」
ボソ、と弱弱しく言う千歳に言葉が出なかった。なんでそんなに切なそうに言うんだよ、抵抗できないじゃん
「…名前」
「…え」
「名前だよ、私の名前は苗字名前」
「…そっか、ありがとさん、」
ぽんぽん、と私の背中をたたくと千歳は私に回していた手を離した。あーあ、おしえちゃったよ。あんまり油断したくないんだけどなあ、いや、眉毛書き忘れてる時点でもう油断してるか
「もう暑くなか?」
「うん、ありがとう、もう冷めたよ」
「じゃ、行くか」
「あ、私なんかジュース奢る…じゃなくて、俺ジュース奢るよ」
「ふ、無理するんじゃなかよ」
そう言ってぽんと私の頭に手を置く千歳。まるで私は子供のようだった
・
・
「ただいまー」
ガチャ、とドアをあけると、そこには白石君と謙也が二人してテレビを見ていた
「おっ、男装時やん!長かったな」
「ちょっとのぼせちゃって」
「お、千歳もおる」
「さっきそこで男装時と会ったばい」
私は輪から外れて荷物をこそこそと元に戻した。
「あけるで」
「え」
気がつくと隣には白石君がいた。え、近い!近い!カバンの中身見えちゃう!そう思ってたら白石君はあたしの目の前にあった冷蔵庫を開けた。そしてさっき買っていたと思われるジュースを取り出す、はあびっくりした
「…あれ…?」
「ん?なんだよ」
「…苗字の髪、いいにおいする」
「…えっ」
白石君はそういうと私の髪に顔を近づけた。そういえば、私家から持ってきたシャンプー使ったんだった!しかもマシェ○!そりゃにおうわ!多分皆は備え付けのリンスインシャンプー使ったんだろうな。さすがにあれだと髪が傷むし…
「き、きのせいだろ?」
「…めっちゃいいにおい…」
「ちょ…あんまりかぐな」
「あ、スマン」
そういうと白石君はス、っと立ち上がり、再びジュースを飲みながらテレビの方へ向かっていった。はあ、びっくりした。まさかシャンプーのにおいに敏感だとは…
「なあ、ベッドどうするん?」
さらに問題が引き起こされた。それは謙也の言葉によって。…忘れてた!ベッド問題!
「おおおおおお俺寝像悪いから一人がいい!」
「何言うとるんやアホ、お前が一番ちっこいんやから、お前が誰かと二人寝にきまっとるやろ」
「え!?」
決まってるんだ…。ていうかよりによって三人ともでかい…。くそ、なんなんだよ…
「ほな、ジャンケンするか」
「せやな」
そう言ってジャンケンを始める三人。どうやら負けた人が私と寝るらしい
『『『ジャンケン、ポン!』』』
「…あ、負けた」
グーが二人、チョキが1人で負けたのは白石君だった。
…白石君!?
「えー!?」
「なんや男装時」
「あ、なんでもない」
ま、まさかの白石君…ヤバい、心臓持たないよ…!!
「明日は俺のベッドでよかよ、男装時なら邪魔じゃなかけん」
「え、千歳…?」
そんなこんなで今日は白石と、明日は千歳と寝ることになった私。ああもう人生がくるってゆく…