あなたのために



私の家はお金持ちだった。欲しいものがあったら、なんでも手に入る。小さいころから私立の女子校に通わされ男性に接触したことはほとんどない。お父さんと執事くらいだ。こんな箱入り娘の私だが、ある日目にとまったひとがいた







「…お父さん、この本なあに?」
「ああ、月刊プロテニス。こないだアメリカ行ったときにテニス観戦にはまってね」
「…テニス…」
「ほら、ちょうど名前と同じくらいの歳の子たちも載ってるぞ」
「…わあ…」







そこに載っていたのはすごく綺麗な顔をした男の子。この子、こんな顔なのにテニスが上手なんだ、すごい。今までお茶華道料理と様々な事は学んできたが、スポーツは無縁だった。








「…白石…蔵ノ介君、かあ」
「なんだ名前、気になる記事でもあったか?」
「…ううん、なんでもない」












あれから何ヵ月経っただろうか。私は中2の冬を迎えていた。頭からなかなか離れてくれない、白石君。相当印象的だったなあ





「ただいま名前」
「おかえりなさい、お父さん!」
「ほら、土産だ」
「…?、これ…」
「月刊プロテニス。お前の好きな白石君、載ってるぞ」
「え!?本当!?…お父さん、なんでそれを」
「お前よく前の月刊プロテニス引っ張りだして、白石君の記事見てただろう」
「…あ…」







ばれてたんだ、恥ずかしい。私は雑誌に目を落とし、写真の白石君を眺めた。









「…素敵なひと」






なんでこんなにどきどきしちゃうの?男の子となんて、話したこともないのに。もしかして、これが恋するってことなのかな。








「…恋…恋かあ…」







顔が真っ赤になるのがわかった。途端、一つの欲望が沸き上がった。








「……だ、だめだめ、何考えてるんだろ私」






一瞬思った。白石君と同じ学校に通って、毎日顔を会わせられたらって。でも恋のために転校だなんて…わがままが過ぎてる。こんなの初めてなのにな。自分から何かしたい、て思うの。








「…自分から、かあ」






あたしは雑誌を置いて、お父さんの寝室へ走った。はじめて広い家を憎く感じた。






バン!







「お父さん!」
「わっ、名前か、何なんだいきなり」
「お願い、一年だけでいいから、私を白石君と同じ学校に通わせて!」
「は!?」






お父さんはそれはもう驚いた様子だった。そりゃ驚くよね、








「お願い、私白石君と一緒に過ごしてみたいの、初めて自発的にやりたい事ができたの、お願いします!」
「…名前…ま、まあ落ち着いて。お父さんもお母さんと考えるから。」








じゃあまた、と私はお父さんの寝室を後にした。はあ、どきどきした。こんなの初めてだ。私は部屋に戻り、再び白石君の記事を眺めた。かっこいいなあ







「…“最近恋してますか?”“してないです。今はテニス一筋です”………………」






テニス一筋って…





「…ん?“それに女の子は苦手なんです。”………え!?」







女の子が苦手?そういえばうちの学校にもよくあった気がする!女の子なのに、男の子苦手で女の子と……い、いわゆるレズ…まあ女子校だから仕方ないけど…まさか白石君…………ほ、ほ、ほ










ホモ!?








バン!



「お父さん!!」
「わっ、またか!お父さんまだ考え中!」
「お願い、私を男の子として白石君の学校に通わせて!」
「…………は!?」







私、生涯で最も大きなわがまま言いました



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