トイレ!




「あいつ、やっぱ変」
「は?」




今俺はサービスエリアで謙也とアイスを食べている。








「何がや」
「あいつサービスエリアも知らんかってんもん」
「え、まじで」
「おん」
「…高速道路使わないほど貧乏とか?」
「その逆もあるで、高速道路使わないほど金持ちとか。移動は自家用ヘリとかジェット機とか」
「いや、その確率は低いやろ」









まあとにかくあいつの世間知らずさに少しびっくりした。一体どうやって育ってきたんやろ










「男装時!ほらこの耳とか似合うんとちゃう?」
「やめろ!」









お土産コーナーではユウジと小春が苗字にちょっかい出していた。猫だか犬だかよくわからない耳のカチューシャをつけられる苗字。うわ、可愛ええ










「…あいつ、可愛いな」
「なんや男なのにムラムラしそうやわ」
「あほ、やめとき」






謙也をバシ、と叩いて視線を再び苗字に戻す。そういえばまだ呼び方問題は解決してなかったな。なんで俺だけ苗字やねん。いややわ























「あーもうやめろって!」






ユウジと小春を振りほどき、私は外へ出た。トイレに行きたいんだけど…他の部員もいそうだしなあ、見られたら困る。しかもこの四天宝寺ジャージで女子トイレに入るのも気が引ける









「…千歳…」
「ん?ああ、男装時か」
「…どうしよう」
「え?」
「トイレ…行きたい」
「…あー…」






千歳は頭をゴシゴシかきながら考える。うう、惨めだあたし。









「…ガマンするばい」
「え」
「今は部員がそこらじゅううろちょろしちょるし、大体他人から見たら男が女子トイレ入ってるってことばい」
「…う」
「…漏れそう?」
「がんばる…」







千歳がいなかったら生きていけないかも、とかちょっと思った

















「男装時ーーー!」
「ぐっ」









後ろからいきなり掴まれたかと思ったら、そこには遠山君が。今年入学してきた元気いっぱいの一年生だ









「ちょ、遠山君、おもい」
「男装時はアイス買わへんの?」
「うん、」
「えー一緒に食べようやー」
「ちょ、遠山君、」






あんまり揺らさないで…!トイレ我慢してるんだから!







「ご、ごめん!」
「あ!男装時」






遠山君を振りほどき、私はバスヘ逃げ切った。そこにはもう白石君が戻っていて、大体皆揃っていた。ああ、もう休憩時間終わりなのか








「…ねえ」
「なんや?」
「あとどれくらいでつく?」
「んー、一時間くらいやな」
「……」







苦しい


















休憩時間もおわり、かれこれ45分。あと少しで目的地に着く。それにしてもさっきから苗字がやけに到着時間を聞いてくる。なんやろ







「なあ、まだつかねえの?」
「あと15分くらいやって」
「……」
「なんかあるん?」
「……たい」
「へ?」
「…トイレ、いきたい」










恥ずかしいのか、ほんのり顔を赤くしながらそういう苗字。…こいつ、ほんまに男心くすぐるかわいらしさあるわ。あかん、俺ホモにはなりたない!





















「おい、苗字ついたで!」
「えっほんとか?」
「ほら見てみい」
「わ…キレー」
「氷帝学園の部長の別荘やねん」
「へー…」








なかなか綺麗な施設だなあ。あ、別荘か。ていうかトイレ!トイレ行きたい!バスがとまると、本当は荷物下ろししなくちゃいけなかったんだけど、白石君に言ってトイレに行かせてもらうことにした。トイレ!












ジャー





「ふう…ま、間に合った…」







私はスッキリして手を洗いトイレを出る。嗚呼、私はどうやらトイレに夢中になり過ぎていたらしい。周りも確認せずに女子トイレに駆け込み、そのまま出てきちゃうなんて。











「……あ」
「……あ」
「………」
「…自分、四天宝寺のやつやんな?」
「…は、ハイ」
「…自分、男やんな?」
「…………は…い」
「…変態?いや、」













「お前女?」









そこでばったり出くわしたのは、長髪メガネの男でした




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