幸村と死んだ女の子


今、僕はヒトと手をつないでいる。温もりが伝わってくる。それだけで、ぼくは、生きているんだと、なんだか涙が出た。彼女の手はいつも温かかった。暑い夏の日も、肌寒い秋の日も、凍えるような雪の日も、いつもいつも温かくて、彼女といるだけで僕は生きていると実感できたんだ。そして彼女はめったに自分の要望を言わないような、静かに僕の隣にいてくれるような、そんな人だった。そんな彼女が、一度だけ、たった一度だけ、僕に願いを言ってきた。雪の降る、海に行きたいと、彼女は言った。めったにないことだから、僕は喜んで彼女を海へ連れて行った。今は二月の終わり。とはいったもののまだまだ寒く、その日は雪が降っていたから特に寒かった。空は雪雲で薄暗くて、海も静かで、まるで何もない空間に来たかのようだった。彼女は海へ着くと、砂浜をゆっくり歩き出す、ゆっくり、ゆっくりと。僕の手を離さずに。あるところで彼女は立ち止った。そこにはたくさんの花束が置かれていた。同時に僕の手に、何か温かなものが降ってきた。雪、ではない。彼女の涙だった。彼女は声も立てずに、ただ目からぼろぼろと涙を流していた。












「一緒にいてくれてありがとう」












手から温もりが消えた。同時に、彼女も消えた。僕の手はそのまま、雪の冷たさによってどんどん冷えていった。まるで、僕が死んでいるかのようだった。彼女の温もりがないと僕は生きていけないのに。しばらくして雪がやんだ。雲の隙間から微かに太陽の光が見える。嗚呼、もう春になるんだね。僕は君がもう死んでいるとも知らずに、春が来るまで愛してしまったのか












一人になんて、なりたくなかった










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