目を盗られた赤也


学校にはつきものである七不思議。もちろん立海にもあった。だけど俺はそんな非現実的なもの信じなかったし、信じたくもなかった。意識すると沼にはまってしまいそうだったから。しかし最近こんなうわさが出てきた。『目を盗る少女』。何なんだ、って思った。テレビの見すぎだろって思った。俺はそんなもの信じないまま、ただ日々が過ぎて行った。ある日俺はいつも通り屋上でサボリをしていた。ガチャ、と錆びたドアを開ける。いつものがらんとした屋上が広がる。しかし視界にあるものが入った。女の子が屋上の隅にポツンと座り、青空を眺めていた。どうしようか。話しかけるべきか。それとも出ていくべきか。しかしここを出て行っても他にサボる場所はない。授業には最強に出たくない。今は英語の時間だから。かといって黙ってあの女の子とこの空間を共有するのも苦だった。しかたない、話しかけるか。


「あなたもさぼり?」
「え…」



不意打ちだ。まさかそっちから話しかけてくるとは。俺は思い切り間抜けな顔をしてしまった。






「ああ…まあ」
「そうなんだ」







彼女はにこ、と笑いかけてきた。俺の気に止まったものは、彼女の眼帯。右目だけ、真っ白な眼帯をつけていた。…触れてもいいことだろうか。










「…あ、アンタ何年?」
「3年」
「年上なんスね」
「君、2年生?」
「そう」
「そうなんだ」








ふふ、と笑った彼女になんだか違和感を感じた。








「…目、…ものもらいっすか?」
「ああ、違うよ」
「え」
「こっちの目、失明しちゃったの」







何がものもらいだ。俺じゃあるまいし。汚い手で目こすると、よくなるんだよな。ていうか失明って。やばくないかそれ








「…あ、えと」
「こないだね、目に野球ボールが当たっちゃって」
「うわ…」
「で、失明」
「それ、最悪ッスね…」







彼女との会話は途切れなかった。何かと反応してくれるし、何よりも内容が濃い。いままであまり会話のネタになったことのない話ばかりで面白かった。俺はしばらく屋上にかよった。そして彼女はいつも、屋上の隅でぽつんと座り、空を眺めていた。










「今日も暑いっすね」
「そだね」
「先輩も相当なサボり魔っすね」
「ふふ、面白いこと言うね」
「…?」
「ねえ赤也君、実は今日はね、この眼帯取れるんだ」
「え?」
「お医者さんがね、取ってもいいって」
「マジッすか!?よかったじゃないッスか!」
「えへへ、」





すこし照れくさそうに笑う彼女は可愛かった。すると彼女は俺に眼帯を取ってもらいたいと言った。すこし躊躇したが、まあボールが当たったってことだし、グロテスクなものが出てくるわけではないだろう。俺は快くOKした










「じゃ、取りますよ」
「ん」






耳にかかったヒモをはずし、そっと眼帯をとる。そこには傷ひとつない、綺麗な二重の目が出てきた。彼女はゆっくり目を開けて、俺の方を見る。









「…どうっすか?」
「…うん、見えないや。変な感じ」
「あれ、先輩もしかしてハーフ?」
「え?」
「右目だけ、青じゃないっすか」






左目は普通の黒目だったが、眼帯に隠れていた方の目は綺麗な青色をしていた。俺は思わず見入ってしまった。本当に綺麗な目だった










「…ホント、綺麗っすね」
「…ふふ、ありがとう」














「この右目はね」




















目を開けると、もう夕方の屋上になっていた。やべえ、部活。真田副部長に怒られる。それにしても、なんでこんなとこに。たしか先輩の目が綺麗過ぎて、見入っちゃって、そのまま…あれ?なんか思いだせねえや。屋上を見渡したら誰もいなかった。先輩も帰っちゃったか。まあ無理もない。とりあえず早く部活いかねえと。立ち上がってドアノブに手をかけたとき、視界が歪んだ。いや、正しくは右目だけの視界が歪んだ。俺こんなに右目悪かったっけ?そのまま視界が狭まり、とうとう左目だけしか見えなくなった








「う、わ、ああああっ」









何だ?何だこれ?意味わかんねえよ。一体どうしたんだ。一気に俺は体から汗が出た。怖い。俺の目、どうしちまったんだよ。怖い。怖い。怖い!












「あ…れ…」










次第に視界が元に戻ってきた。しかし、何か違和感を感じた。右目に映ってるものが、左目のものと違う。俺は左目だけを隠すと、そこには青空が広がっていた。今は夕方なのに、









「ああ…そうか…」












目を盗る少女って先輩だったんスね。途端安心した。そうか、俺の目は今先輩の目になっているのか。先輩は全部目がみえてるってことか。それだけで嬉しかったし、何よりもあの人と何かを共有することができたということに俺は幸せだった。たとえ彼女が人間ではない何か他のものであったとしても、俺はあの人に惚れていたんだ。


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