手塚君って、ホモらしいよ*


あたしは生まれながら色素の薄い茶色の髪をもち、自分で云うのも難だが比較的整った顔立ちをしていた。それは自分の双子の兄を見ていればわかる。まるでドッペルゲンガーのような、私の双子の兄。彼は女性のようにきれいな顔立ちをしていた。私が彼に似ている、というよりも彼が私に似ている、と云ったほうが正しいか。しかし決定的に違ったものは、持ち合わせた運動能力であった。彼はテニスの才能を発揮し、天才とまでよばれるほどになった。それがあたしとの唯一の違いであった。天才不二周助。それがあたしの兄だった。彼はテニス部に入り、仲の良い友人ができたらしく、度々家に招いていた。あたしはそのたびに彼に挨拶をする。同い年にはまるで見えない、大人びた人。それが手塚国光だった。第一印象はかたい人。しかし次第に綺麗な男であると意識するようになった。そんな関係のまま、私達は中学三年生へと進級する。あたしは髪を切ったことからますます周助に似た。制服が唯一私と周助を見分ける手がかりであった。





「ただいま」
「おかえり、周助。…あれ?手塚君?」
「少し家にあがらせてもらう。すまないな」






手塚君は中学三年生になり、私が想像していた通りのかたい人になっていた。真面目でポーカーフェイスな彼に私は少し惹かれていた。





「今お茶だすから」
「すまない」
「いえいえ」







私はキッチンへ向かい、カップにお茶を注ぐ。今日は手塚君がきてくれたから、少しお洒落にハーブティーだ。カップを持ち、階段をあがって周助の部屋のドアを叩く。





ガチャ



「手塚君、お茶持ってきたよ」
「ああ、ありがとう」
「…あれ、周助は?」
「消しゴムを買いにコンビニへ行った」
「ああ、勉強しにきたんだ」






部屋を覗くと中央のテーブルには教科書やらノートやらが開かれている。






「偉いね。あたしも勉強しなくちゃ。じゃあ周助の分は下に持ってくね。後でまたいれなおすよ」
「…いい」
「…え?」
「せっかくだ、俺と飲んでいかないか」






不二が帰ってくるまで、と付け足した手塚君の言葉に私は素直に喜んだ。嬉しい、手塚君と二人きりだ。私はお茶を持って部屋に入った。





「今日のお茶はね、ハーブティーなの。いい香りでしょ」
「ああ、そうだな」
「それでね、このお茶…………」






上手くいれられたお茶について長々話していると、ふとカップを持つ手に温もりを感じる。手塚君だ。手塚君の手が、あたしの手を覆っていた。





「…え…手塚く…」
「…お前が好きなのだが」







どきんと高鳴る胸。まさかの告白だった。私は一気に身体中が熱くなる感覚に陥り、言葉を発することができなくなった。嬉しい、手塚君が私のことを好きだなんて。嬉しい、嬉しい、嬉しい!今すぐ私も、彼に向けていた感情をぶつけたくなった。






「あたしも手塚君が好き」









まるで魔法の呪文のように、言葉があたしと手塚君を巻き付けた。ここから始まった、私と手塚君の関係。まさか、まさか、あんなことになってしまうなんて。一体誰が知っていただろう。時間を戻せるものなら戻したい。できれば、手塚君に出会う前、否、生まれる前までね。










「お前は女らしさがあるな」
「…え、そう?」







付き合って数日が経った。一緒に帰ろうという事になり、あたしと手塚君は周助を振り切って二人で帰ることになった。いつもと違う帰り道。なんだか違う世界にいるみたい。そして麗しの彼の口から発っせられた言葉がこれだ。嬉しい、その時一瞬はそう思った






「だが、俺は女口調は好きではない」
「…え?」
「………」
「あ…例えば、〜なのよ、とか?」
「…ああ」
「でもそうじゃなかったら男の子みたいな話し方になっちゃうよ」
「…不二みたいな話し方はどうだ?」
「周助…?ああ、あいつは結構穏やかな話し方するよね、ああいうのが好きなの?」
「…ああ」
「そうなんだ、じゃあなるべく女口調はしないようにする」
「…すまないな」






手塚君に好かれるなら何でもしようと思った。




パキン、






何か私のなかで割れる音がした














「ねえ、手塚君のこと、国光って…呼んでいいかな」
「……………」






付き合って二週間、私はまだ手塚君と呼んでいた。付き合っているなら、下の名前で呼んでいいかなと思い、唐突に提案をしてみた。しかし手塚君はいつもの無表情で何も答えない。







「あっ、いや、あの、嫌ならいいんだけど」
「…手塚」
「え?」
「手塚と、呼んでくれ」
「え…あ、名前呼ばれるの嫌だった?」
「………ああ」
「わかった。じゃあ手塚って呼ぶよ」
「…俺はお前を不二と呼びたいのだが」
「え?周助と紛らわしくない?」
「大丈夫だ」







なぜだろう。疑問ばかり浮かんだ。名前で呼んでくれれば、周助と間違えなくていいのに。あたしも嬉しいのに。仕方なくあたしは手塚君を手塚と呼ことになった。なんだかんだで新鮮だ。



パキン、






あ、またこの音だ。










「手塚、今日暇?」
「ああ、部活はミーティングだけだ」
「じゃあ、遊ばない?」
「ああ、構わない」









1ヶ月がたち、手塚と呼び慣れてきた。今日は久々に手塚と二人であえる。嬉しいな。あたしは放課後を楽しみに授業を受けた。何故か時間が遅く過ぎていく。もどかしいな。それでも時間は過ぎ行くわけで。あたしは放課後になり、手塚のミーティングが終わるのを待った。部室の前で帰りを待つと、次第にガヤガヤと笑い声が聞こえてきた。どうやらミーティングが終わったらしい。あたしは荷物を持ち、帰る支度をした。ガチャ、部室のドアが開く。出てきたのは手塚と周助だ。二人は楽しそうに話している。仲がいいのね。






「手塚」







あたしは手塚に呼び掛けたが、振り向かない。周助との会話に夢中だ。少し嫉妬した。相手は実の兄だなんて。







「…手塚!」
「…ああ、すまない」
「…いこ?」
「ああ、いこうか」







手塚はやっとこっちを向く。それだけで嬉しい私は彼を溺愛してるのだろう。






「今日、どこいく?」
「…俺の家に来ないか」
「えっ…いいの?」
「…ああ、親もいない。」
「あ…」






一瞬ドキッとした。そんなこと言われると期待してしまう。私だって思春期だ。顔が赤いことをばれないように、私は手塚についていき、彼の家に向かった。












「適当に座ってくれ」
「…あ、うんっ」







緊張して口が乾く。一体何に緊張する必要があるのか。私は手塚のいれてくれた麦茶を一口口にする。おいしい。






「緊張、しているようだな」
「へっ?」
「…何故緊張をする」
「………」






だって私達は今二人きりだ。誰もいない、この広い家に。私達だっていい年だ。なにがあったとしても、おかしいことなど何もない。








「…こういうことを、期待しているのか」
「え…ひゃっ」







ペロリと私の耳を舐めた手塚。くすぐったさか、快感か、何とも判断しにくい感覚に思わず肩をびくっと揺らす。








「あ、あのっ手塚…!」
「お前さえよければの話だが」








そんな発言とは逆に、彼はどんどん私の制服を脱がせていく。身体中に手や舌を這わせて、私に快感を与えていく。いつの間にか私は下着だけになっていた。床には私の制服が無造作に置かれている。部屋の隅に置かれた全身鏡が私の恥ずかしい姿を映し出していた。恥ずかしい。思わず目を逸らす。




「…不二、好きだ」
「…ん、」
「はあ、不二、不二、」
「て…づか…」






私が制服を全て脱いだ頃からだっただろうか、手塚の様子が少し変わった。私の名前を、正しくは名字をひたすら呼んでくる。それはもう、いとおしそうに、少しだけ悲しそうに









あれ?










「不二、不二…っ」






手塚の叫びは止まらない。彼はあたしの下着に手を入れて、下半身をなではじめた。私だって立派な女だ。好きな男に下半身を触られたら感じてしまうのも仕方がない。次第に下の口が濡れてくる。手塚の手が、そこに近づいてくる、期待と不安に胸がいっぱいだ









あれ?











手塚の綺麗な長い指は、その穴には触れず、尻の方へむかう。あたしは背中がゾッとした。だって、彼の指が、あたしの肛門へと入っていったから









「や…だあ!」
「はあ、好きだ、不二、不二」








彼にあたしの声は伝わっていないらしい。その指は止まらない。あたしは涙目になりながら、痛みに耐えた









あれ?











ふと隣を見ると、全身鏡が未だに私と手塚の性行を映している。しかしさっきとは違うふうに見える。









そこにはあたしではなく、周助が見えた










「は、不二っ」
「やあ!やめてえ!」







手塚は無理矢理私の肛門に自分のものをいれようとする。こわい、こわい、やめて、しかし止まらない。








床には、私の制服が置かれている。







ねえ










制服って、私にとって、なんだったっけ











『唯一私と周助を見分ける手がかり』










あたしはそこから感覚が消えた。痛みも快感も、何もない。目の前にはひたすらあたしの肛門に自分のものを抜き差しする手塚。








ねえ







貴方の目に映ってるのは誰?
















あたしじゃないよね














「不二…っ、好きだ…お前が好きだ」









パリンっ、










あたしのなかの何かが、全て砕けた。砕けたものは、私自身。ねえ、なんで私は周助と双子で生まれてきたの。どうして手塚は私じゃなくて周助を愛したの。お願い、私を見て。私を見てよ。










やり直せるなら全てやり直したい。でももう無理だ。私はいつの間にか手塚のせいで、完全に周助になってしまったのだから






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