素敵だね
今日は日曜日。もう明日と明後日しか残ってないのに、手塚君に会えない。もう、時間がもったいない。もったいなさすぎるよ。
「あー、どうしよう」
手塚君に会いたい。なんとかして、会いたい。どうしよう、でも部活かな。見に行ってみようかな。でも、部活じゃないかも!ああもう、悩みすぎておかしくなりそう。何にも手がつかないよ。
「よし、いこう!」
とりあえず、いこう!どこかへ行こう。手塚君の家に行ってみよう。とりあえず。いるかどうかはわからないけど
あたしはワンピースを着て、靴下をはき、靴を履いて外へ出た。ぬるい風が吹いている。まだまだ春だ。桜はちょうど満開だ。
「…キレイ」
手塚君と、歩きたいな。この桜並木。早く言わなきゃ、もう一生できなくなっちゃうよ。しばらく歩いて行くと、前から人が来た。あれ、何か見覚えがある。メガネで、サラサラの髪の毛で、背が高くて、手塚君に似てて、って
「手塚君…?」
「名前」
「偶然、何してるの?こんなとこで」
「…いや、」
手塚君は口元に手を当てて、少し恥ずかしがったようすで言った
「名前に会いに行こうと思ってた」
「…え…あたしもだよ」
すごい、以心伝心っていうのかな、二人とも同じことを考えてたなんて、
「素敵だね」
「…なにがだ?」
「ふふ、いろいろと」
「…?」
「ねえ、桜、見に行こう」
「ああ」
この桜が、散ってしまう前に、まだきれいに咲いているうちに見に行こう。きっと散ってしまった姿は一緒に見ることもできないだろうから。満開の桜並木を歩くと、なんだか別世界にいるような感じがした。後ろを振り向くと、手塚君がいる。たくさんの桜吹雪の中に、手塚君がいる。きれだね、そう呟いたけどきっと彼には届かなかっただろう。否、あたしが届かなくしたのだ。彼があまりにも悲しそうな顔をしていたから