無色
彼氏の家に、お出かけ、今までやってみたかったことの一つが今かなおうとしている。
「…でか…」
目の前には、でかい門。表札には手塚の苗字。間違いなく手塚君の家だ。でかい、でかすぎる。あたしの家なんて犬小屋みたいに見えるよ
ガラ
「名前」
「わっ、て、手塚君」
「何をしている。早く入れ」
「う、うん」
何であたしがついたこと、わかったんだろう。あたしは靴を脱ぎそろえて、おじゃまします、と一言言ってあがりこんだ。
ぐい!
「えっ」
急に、手塚君に抱きしめられた。え?ていうか、親御さんは!?見られたらまずくない?
「て、ててて手塚君!」
「…家には誰もいない」
「あ…そう…」
「…お前は抱き心地がいいな」
「そ、そう?」
「ああ、安心する」
「…うん、あたしも」
とりあえずあたしは手塚君の部屋へ通された。本がたくさん。あたしとは大違いだね
「適当に座ってくれ」
「うん、ありがとう」
あたしはベッドに寄りかかって座りこんだ。手塚君は丁寧にお茶を出してくれた。えらいなあ。あたしも学ばなきゃ。
「…いただきます」
「ああ」
緑茶、飲むの久々だなあ。あたしの家は麦茶だからなあ。
「…今日は髪が違うな」
「うん、ちょっとくるくるさせたの」
「似合っている」
「そ、そう?ありがと」
この率直な言葉、恥ずかしい。
「…新聞、読むの?」
机の下には新聞が転がっていた。
「ああ」
「すごいね…」
「少しだけどな」
あたしは新聞を少し開くと、びっしり文字が並んでいてくらっとした。
「…あ、これ…」
「なんだ?」
「見て、お祭り。いつだろう」
4月15日。来週だ。あたしと手塚君は、もう別れているころだろう。むしろ、以前のような他人に戻っているだろう
「…15日って、暇…?」
一応、聞いてみた。行けるはずがないのに
「…悪い、部活だ」
「あ、そっか…」
よかった、断られた理由が部活で。断られたことに変わりはないけど、少しほっとした。
「…それ、いきたいか?」
「え?」
「祭りだ」
「…あ、…ちょっとだけ」
「そうか、考えとく」
何を考えるんだろう。そんなのこと想いながらあたしは新聞を閉じた。
「名前」
「ん?」
「おいで」
「…う、うん」
おいで、だって!嬉しい、お呼ばれだ。いつ見ても手塚君はかっこいいなあと思う。
「…な、なあに?」
「いや、…名前は犬みたいだな」
「………」
手塚君はあたしの頭をなでたり、ほっぺたをふに、と触ったりする。なんだかやられてばっかで少し悔しい。あのポイーカーフェイスが崩れるところを見たい。そんな気持ちがあふれた。
「名前?」
あたしはそのまま手塚君にのしかかって、キスをした。少し苦しそうに、手塚君は顔をゆがませた。ああ、かっこいい。
「……ごめん、おもかったでしょ」
「………」
「何でだまるの」
どうしてだろう、幸せなのに、素直に喜べない。色のない喜びがあたしをいっぱいにしていった。