苦手
「はあ、疲れた」
あたしは今雅治家にいる。帰り際に、ブン太から逃げるように走って走って、なんとか雅治の家までついたのだ。
「ブン太、また怒ってるかな」
「ほっとけばええって」
雅治はシュル、とネクタイをはずして部屋着に着替えた。
「…あたし幸村君苦手」
「え?」
唐突なあたしの言葉に、雅治が間抜けな声をあげた
「お前さんら、初対面じゃろ?」
「…うん、まあ…」
「なんかされたんか?」
「…なんかさあ…」
幸村君を見ていると、嫌でたまらなかったあの部活が頭によみがえってくる。一位だとか優勝だとか、勝ちにこだわって全然楽しくない。
「頭が痛くなるの」
「…まあ、あいつは仕方ないぜよ」
「うん、あんまりかかわらないようにする」
「そんなことより」
後ろからにゅ、と手が伸びてきて、あたしの首に巻きついた。
「わ、ちょっと、何!」
「幸村の話なんてしなさんな」
「わ、わかったから、どいて」
「えー」
「いや、えーじゃなくて」
「ええじゃろ、別に」
「…やだ、恥ずかしい」
赤くなるあたしを見て少し雅治が楽しそうだった。あたしは本当は雅治よりも年上なのに、なんだかあたしが子供みたいだった