きみがすき




「ほい」
「………」
「…おい」
「………」
「おい!仁王!プリント!」
「……ああ」







やばい、ぼーっとしてた。目の前でプリントを渡してきた丸井がキャンキャン吠えとる。







「…………」
「なんか言えよい」
「……はあ」
「ため息つくな」








原因は名前だ。さっきの避けよう、傷つくぜよ。俺なんかしたかのう






「ったく、どいつもこいつも俺のこと無視しやがって」
「すまんて」







丸井はすねて前を向いた。教室を見渡したら視界に名前が入った。少し元気がなさそうにみえるのは丸井との喧嘩が原因なのか







.


.






「苗字、このプリントわけとけ」
「えー」
「教科委員だろ」
「はーい」







あたしはしぶしぶプリントを受け取った。この間の小テストだ。みんなの点数丸見えだ









「…あ」





ペラペラめくっていると、雅治のプリントを発見した。あ、満点だ。数学得意なのかな







「…渡しにいかなきゃ」






やだなあ、雅治の前にはブン太もいるのに。地獄だ









「……雅治、」
「名前」
「…あの、プリント…雅治の」









「…ありがとな」







雅治はにっこり笑ってくれて、あたしからプリントを受け取った。ああ、また胸が苦しくなってきた







「…じゃ!」
「あ、おい」







あたしはブン太にプリントを渡すのを忘れそのまま走りだした。ああもう、なにしてんだあたし。教室の外へ出て廊下を走り、いつの間にか屋上までついてしまった








「名前!」








え、雅治?







がし、と腕を掴まれ少し転びそうになる







「雅治…」
「お前、走んのはやいぜよ」
「あ、あはは…」
「…逃げんな」
「………」





どうしよう、顔がみれない。







「俺、何かしたかのう」
「……してない」
「…こっちみんしゃい」
「…無理」
「何で」
「…恥ずかしい…」
「え?」







わあ、まただ。身体じゅうほてってきた。顔があつい。あたし今、きっと林檎みたいな顔してる








「…顔、赤いぜよ」
「…うん」
「……風邪?」
「…違うと思う…」
「…そか」








雅治はあたしの腕をはなして、影のある場所へ向かい、腰を下ろした。雅治があたしの隣からいなくなり、風がびゅうっとあたしに向かって吹いてきた。なんだか急に寂しくなったからあたしは雅治の方を見た。彼は影のところに座り、こっちを見てる。
それだけで安心した。この世界にきてから彼は常にあたしに安心感を与えてくれている。はっきりとそれを理解したとたん、きっとあたしは

















あたしは

















「恋しちゃったかも」
「…へ?」
「雅治に」








そう言った途端、あたしはぐい、と引き寄せられて、抱きしめられた。嗚呼、幸せ。この世界にきていいことないとか思ってたけど、案外いいことあったかも。でもその瞬間、あたしの心には一つの不安が生まれた























あたしはいつまでこの世界にいるのだろう








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