尾行
合宿が終わってやっと大阪に帰ってきた。マンションにつくと管理人さんがダンボール一箱と大量のバラをあたしに渡してきた。どうやら一つはお母さんとお父さんからのプレゼントで、もう一つは跡部からのプレゼントらしい。(本当に実行したんだ…)
「すごい量…どうしようこのバラ」
「こんだけあると邪魔ばいね」
「でも捨てるわけにもいかないし…あたしちょっと愛子のところまでおすそ分けしてくるよ」
「バラのおすそ分けって…」
千歳は苦笑いしながらバラの花束を渡してくれた。
「…千歳にバラの花束渡されるって、変な光景」
「失礼たいね」
「だって」
「俺からも八月中にはプレゼント渡すばい」
「…え…いいの?」
「期待できるもんじゃなかばってん」
「…ふうん…」
「あ、嬉しい顔しとるばい」
「う、うるさいな…いってきます」
・
・
「なんでこんな暑いん?」
「しゃーないやろ、夏やし」
「おい大阪の忍足、俺に冷たいものを持ってこい」
「…おい侑士、こいつなんなん」
「…跡部や」
「そやなくて、なんでこいつが大阪におるん!?」
「仕方ないやろ。夏休み終わるまで大阪にいく言うて聞かなかったんや」
「おい、ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと持ってこい」
「なんで俺がパシリなん?…あ」
「ん?なんや?…あ」
「なんだよ…あ!名前!…あいつなんでバラの花束なんか…」
「あっついなあ…」
こないだまでずっと山奥にいたから本当に都会は暑い。それにしてもバラの花束を持ちながら歩くのって恥ずかしいかも…
「名前やん。散歩しとるんかな」
「あの花束…家に帰ったら跡部からの大量のバラに困り果てて、おすそ分けに行ったってとこやな」
「あいつ…おい忍足、いくぞ」
「え、どこへ?」
「名前に文句言いにだ」
「いや…俺は遠慮しとくわ」
「おい、いくぞ。名前を見失うだろ」
・
・
「………」
気のせいだと思うんだけど、いや気のせいであってほしいんだけど…。なんかさっきから妙に視線を感じる
「…早くいっちゃお」
あたしは早歩きで愛子の家まで歩いた。しばらくすると愛子の家が見えてきた。
ピンポーン
ガチャ
「はい…あ、名前!」
「久しぶり、元気?」
「うん、あたしは元気だけど…その花束何?」
「あー、えっと…お土産?」
「暑苦しいお土産だな」
「………」
・
・
「へえ、じゃあ初チューは千歳君に奪われちゃったんだ」
「ちょっと、はっきり言わないでよ」
「赤くなっちゃって、かわいいなー」
「…もう帰る」
「あはは、おもしろいなー」
「からかわないでよ」
「ごめんって。あ、そういえば最近変質者いるっていうから帰るとき気をつけてね」
「…そうなんだ」
あたしはカバンを持ち愛子の部屋を出て玄関へ向かった。
「じゃ、また夏休み明けにね」
「うん。じゃあね」
ガチャ
外に出るともう空は真っ暗だった。合宿から帰ってきたの夕方だったからなあ。はやく帰らなくちゃ
「………」
ペタペタペタ…
はいているサンダルが間抜けな音を出している。道は人影がなくてあたしの足音は妙に響いた。
ペタペタペタ
『おいっ押すなよ』
ペタペタペタ
『はよ歩け!』
ペタペタペタ
『おい忍足、水よこせ』
あたしの足音に交じって聞こえる聞き覚えのある声。後ろを振り向いてみたけど誰もいない。だけど電柱から見覚えのある金髪がちらと見える。
「…はあ…。…謙也、なにしてんの」
「わっバレてもうた!!」
「いやバレバレだから…あれ?」
「あはは、さっきぶりやな名前ちゃん。サンダル姿もかわいいな」
「侑士君!どうしてここに………え?」
なんか、侑士君の隣に何か見える。すごく見たくないものが見える。
「よお名前。俺様の花束を持ってどこにいってたんだ?」
「…あ…跡部…」
なんでここに跡部がいるの!?東京帰ったんじゃなかったの!?っていうかバラおすそ分けしに行くの見られた…
「…あはは…ちょっと外に持っていきたくなったっていうか…」
「その花束、どこにやったんだよ」
「…えっと…」
「てめえ、人のプレゼントをおすそ分けとはいい度胸だな」
「ご、ごめんなさい…」
「おい名前、今度夏祭りにいくぞ」
「は!?何の話?」
「また連絡するからな」
跡部はそのまま侑士君と一緒にどこかへ行ってしまった。っていうかまたこういうパターンか。ていうかあたしのこと尾行してたんだ。
「…謙也…」
「す、スマン!」
「…はあ」
「お、怒ってる…?」
「…怒ってないよ、今日は早く家帰って寝な」
「お、おう」
・
・
「跡部が?」
「うん…しかも夏祭りに誘われた」
さっきあったことを千歳に話したら、なんだか千歳は黙ってしまった
「…千歳?」
「名前、こっちこんね」
「え?何?」
素直に千歳の方に近寄ると千歳の大きな手があたしの頭をなでた
「名前と一緒にいるんは俺。夏祭り行くのも俺と。ってことでよか?」
「…うん」
な、なんかすごく嬉しい。しかも恥ずかしい。あたしは真っ赤になる顔を隠すために下を向いた。前にはくすくす笑っている千歳がいた。