薄っぺらい涙



ドピュッ


嫌な音が響いた。こいつは早漏か。なんでこのタイミングで出すんだ。おかげであたしは頭や顔の他に制服にもベットリと精液が着いてしまった。「…ゎ…ご、ごめん」とかいって男は足早にその場を後にする。ティッシュくらいおいてけよ、馬鹿。





「…どうしよ…」






ここは資料室。こんな姿じゃ出るに出れない。





「………」




不本意だけど、あたしは電話をかけた。






白石君に












「…あ…白石君…?」
『なんや、今お楽しみだったんじゃないん?』
「おねがい、助けて」
『え?』
「……ティッシュ、持ってきて」
『は?』



















まさか名前にこんな頼みをされるとは。少し屈辱だ。悔しい。俺はセックスを断わられた相手のために、ほかの男の精液を拭くためのティッシュを持っていかなくてはいけないのだから。イライラする





「…なんでおれじゃ、あかんねん…」







ガラ、と資料室を開けると、ホコリ臭さの中にイカ臭さが交じる。精液特有のにおい。頭が痛くなりそうだった。床にペタンと座りこんでいる名前がいる。脱力した感じだった









「…ほい、持ってきたで」
「…ごめん」
「はよ拭きや、固まったら取れなくなるで」
「……ごめん…ごめん…」
「なんで謝るん。何に対して謝ってるん」
「…それ…は…」
「…なんでこんな精液つけてるんや…なんで俺のじゃあかんの」
「…だから、…白石君は真っ白だから」
「もう聞き飽きたわ、それ。意味わからんて」
「あたしの中に入ってきたら、黒くなっちゃう」
「え」
「うつっちゃう、だからだめなの…」
「なんやねんそれ」
「白石君は、真っ白のままでいてよぉ…」








ポロ、と名前は涙を流す。綺麗な涙、と心の中で思う。









「…汚い涙。薄っぺらい涙」
「…なんでそんなこと言うん」










「あたし、白石君が好き」



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