チョコキッス






「こたつあったかいねー」

「ほんにこたつん中は幸せばい」



今まで12月31日といえば、大晦日ということで家族と紅白見て年越蕎麦食べてそのまま寝てしまう、というものだったけど。

今年は違うんだ。



「千歳寒がりだもんね、でもやっぱり大阪の冬って寒い?」

「んー、まぁ
 九州よりは寒かね」

「そっか」



今年の12月31日は大好きな千歳の誕生日。

だから一緒に過ごしたくて、親にそのことを伝えたらあっそうと言われちょっと寂しかった。

もう少し寂しがってくれても。



「あっ、ケーキ食べよお誕生日ケーキ!」

「んー」

「・・千歳」

「んー?」

「横入ってもいい?」



千歳はきょとんとした顔で私を見た。

ちょっと時間がかかったけど理解したみたいで、こたつのただでさえ狭いスペースを詰めてくれた。



「なんね、急に甘えてきて」

「違うもん、ケーキ食べるからだもん」

「答えになっとらんよ」



笑ってる千歳をぐいぐいと詰めさせながらこたつに入ると、狭かーと言って私を抱き寄せた。

あ、ちょっとやばいかも。

でも腰に手あててないし大丈夫だよね。



「狭いんじゃないの?」

「べつに」

「えー、なにそれ」

「抱き合うてたら狭いもなんもなかよ」



ぽんぽん、と軽くリズムをとるように背中を叩いてくるのは千歳の癖のようなもの。

これ、すごく安心する。

まぁ、最初は子供扱いされてるんだと思ったんだけどね。



「ささっ、小さいケーキだけど食べよ」



パッ、と千歳から離れるとちょっと不機嫌そうな顔になったけどそれもすぐに治った。

ケーキを口へ運んで食べさせたから。



「んぐっ」

「千歳の好きそうなチョコレートケーキ買ってきたんだけどおいしい?これねー、大阪で一番なんだよ!私の中で」

「んんっ、おいしか、んむっ」

「ほんと?やっぱり私の舌はグルメだー」

「ひ、一口が大き、んぐぐっ」

「はい、最後は残しておいたいちごー」



まだ口に入っているケーキは気にせずにいちごを押し込んだ。

ものの見事に数秒でなくなったケーキ。



「んん、」

「飲み込んだ?」

「んはぁ、死ぬかと思たばい」

「ご、ごめん」

「なしてあんなに、そういえば一つしか買わんかったと?」

「え?う、うん」

「食べんの?」

「私はいいの!千歳の誕生日なんだし千歳だけ食べれば!」



お皿を片付けようと思って立ち上がったら千歳に止められた。

腰に腕を回されて。



「うぎゃああ!」

「え!?」

「腰は、さ、さ触んないでー!」



私はそのままぺたんと座り、離れるように後ずさった。

千歳は驚いたみたいで固まっている。



「あ、えと」

「・・・」

「ごめん」

「いや、よかよ」

「あのー、実は」

「ん?」

「太ってしまいまして」



え?、とひょうしぬけた声を出した千歳はまだ固まっていた。

はい、実は太ったんです。

たぶん学校休みだからって友達と浮かれたりいっぱいお菓子食べちゃったりしたせいで。

だから千歳の分しかケーキ買わなかったし、千歳が食べてるところ見たら自分まで食べたくなっちゃうから急いで口の中へ収納させました。

このことを伝えると、千歳は突然笑い出して、



「笑わないでよー!」

「いや、すまんばい、ははっ」

「・・(謝りながら笑ってる)」

「太ったなんて気にせんから、おいで?」



私、すごくショックでめちゃめちゃ悩んだのに。

でも、



「うん」



千歳はそんな私の気持ちまで知ってて言ってくれるんだ。

そう思うと甘えずにはいられなかった。



「甘いの我慢したとね、えらいえらい」

「ん、ありがとう」

「口ん中まだ味残っとるかも」

「え?んむぅ」



顔が近づいたと思ったら長い長い大人なキスをしてくる千歳。

かすかにするチョコの味。



「これで少し満足?」

「ん、長いから、苦しい」

「さっき俺はもっと苦しかったとよ」

「ごめんなさい」



太ったとカミングアウトして恥ずかしかったけど、それ以上に幸せだという感情が大きくて。

それは私を無意識に笑わせた。

でも、



「んー?太ってなかよ?」

「さわるなー!」



セクハラはよくないし、腰をいやらしく触ってくる手を一発叩いた。これも一応愛情なんです。



「あ、もう少しで今年も終わりだ!」



今までにない素敵な年の終わりでした。

ハッピーバースデー千歳。来年も一緒にいようね。





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