約50年ぶりの再会


―それは、鯉伴を閉じ込めたすぐ後のお話



「総大将。言われた通りに鯉伴様をお部屋に閉じ込めておきました」

「良くやったカラス天狗…全く隙あらば出てくからな。厳重にしねぇと」

「ぬらりくらりと出て行くのは総大将の受け売りでは?」

「…ま、まぁ確かにそうだけどよ!ワシはもっと良い事に使うぜ?」

「花開院家に飯を食いに行く事はどーかと」

「も、もうんな事しねぇって…つーかワシよりも鯉伴だより・は・ん!」


なんであいつは夜遊びすんのかねぇ

桜姫が居りゃあ大噴火だぞ…ったく


「"総大将。よろしいですかな"」

「なんじゃ?」

「"ホタル妖怪の光がお見えになっております"」

「何?光が来とんのか?すぐ通せ!」

「"はっ!"」

「ほう。光がこの土地に戻ってきたのですか」

「…50年、か…」


まだ光が生きていてホッとした

妖怪とはいえ光はホタルだ。ワシ等よりも寿命は短い


「"ぬらりひょん様。光でございます"」
「おう入れ」


スゥと襖が開くとそこには光が入ってきた

50年前とほとんど変わらない姿…まぁ当たり前か


「では拙者は失礼いたします。お二人で話すこともあるでしょうから」

「すまねぇなカラス天狗」

「申し訳ありません。カラス天狗様」

「いえいえ…光。ゆっくりしてゆくのだぞ」

「はい」


気遣っちまったかな…しかし本当にカラス天狗は空気読めるよな


「久しぶりじゃな。光」

「はい…50年ぶり…でしょうか」

「おう………よく生きてくれた」

「私もまさかこんなに長く生きていられるなんて驚きました…有難うございます。ぬらりひょん様」

「ワシはお礼を言われるような事してねぇぜ?」

「いえ…行き場のない私を拾って下さったのは誰でもないぬらりひょん様です。返しきれない恩がございます」

「よせよ。照れるじゃねぇか」

「ふふ」


初めて光を見た時はそりゃあ驚いたな

ホタルの妖怪なんて生まれて初めて見た…きっとそれ程光は思いがあったんじゃろうな


「そう言えば」

「?」

「鯉伴様、大きくなりましたね」

「おー…昔は素直で良い子だったのによー今じゃあ手のつけられん程悪餓鬼になっちまったぜ」

「ふふ。ですがお優しい心をお持ちです…ぬらりひょん様にそっくりでございます」

「……光。鯉伴に会ったのか?」

「はい。つい二日程前に暗闇の中帰れなくなっていた鯉伴様をお見つけに」

「へぇー有難うな光。馬鹿息子を送ってくれて」

「いえいえ…………」

「…どうした?」


なんだか光の表情が重い

……まさか


「光…お前の寿命、あとどれくらいだ?」

「…あ、いえ!まだまだ沢山ありますよ」

「光。あの時約束したじゃろ?ワシには嘘はなしと」

「…ぬらりひょん様」

「…」

「あと……10日、ぐらいかと思います」

「っ」


やはり…ホタル妖怪は長くて50年ちょっとしか生きられねぇのか…?

駄目じゃそんなの…光はもっと生きるべきじゃ


「何か方法はある筈じゃ」

「っ」

「待ってろ光。ワシが何とか寿命が長くなる方法を」

「ぬらりひょん様…良いのです」

「だが!」

「私は沢山生きました。本来10日ぐらいしかない命が50年も続いたのですよ?もう思い残す事はございません」

「光…!」

「お願いでございます…この事は…内密に……鯉伴様には」

「っ、鯉伴…じゃと…?」

「…」


光、何故鯉伴が出るんじゃ?

お前と鯉伴はどういう――――







「えーじゃあ泊まってくよな?ここで会えたんだし光ともっと話てぇな」

「また鯉伴様の我が儘が始まりましたね」

「我が儘じゃねぇし」

「…」


あーそうか。そうなんじゃな光

鯉伴…光の事気に入っちまったのか

どうすりゃあ良いんだ?ワシは親として……絶対に鯉伴の恋は成就しねぇ

そんな恋をワシは応援出来るか?…否、出来ねぇ

ここは一つしかねぇ



「カラス天狗。何としてでも光の事を諦めさせるんじゃ…光の寿命はもう一週間もねぇ」

「なんと…!」

「あのままじゃあ鯉伴が悲しむだけじゃ」


愛する者を失う辛さはワシが一番良く知っている

…桜姫が亡くなったあの日…辛すぎてやばかったからな

鯉伴にはそういう思いをしてほしくねぇんだ……鯉伴。分ってくれるよな――