幸せな時間だった




あの日から俺は時間さえあればずっと光と過ごした

少し遠出して綺麗な場所を見たり、町で遊んだり…かけがえのない時間だった

なんだか光が消えるなんて嘘みたく思えてきた

今までのは勘違いで実はもっと長く生きられて…これからもずっと一緒に居れて…

それで、二人でまた出かけて…―――





「…光」

「…」


今日がその光の命が消える日だった…だが俺も光も忘れていたのだろうか

いつものように二人で過ごしてたんだが…光が等々倒れちまって…光を抱き上げて急いで屋敷に戻って鴆一派に診せたがもう駄目らしい

さっきまであんなに元気だったのに…俺に笑いかけてくれてたのにっ


「…」

「…雪女。ワシ等は出ていこう」

「え、えぇ…そう、ね…」


気が利くのかそうでないのか…親父、すまねぇ

このまま目を覚まさなかったらどうする?俺耐えられねぇよ

嗚呼…やっぱ辛い。俺、光と離れたくねぇよ

こんな俺は…我が儘かい?


「…ん」

「光!」

「…鯉、伴…様」

「光…」


ゆっくりと起き上がる光をそっと肩を抱いて支える

目が合うと光は微笑んでくれた


「そんな悲しい顔、しないでください」

「してるかい?」

「してます」

「…光…やっぱ俺、離れたくない」

「鯉伴様」

「このまま、時が止まれば良いのに…」


このまま時が止まればずっと光と居られる

でもそんな事仏でも出来ねぇ…無駄な事


「泣かないで、ください」

「、」

「約束したでしょう?私はずっと鯉伴様を見ています。と」

「でもっ」

「貴方は一人じゃない…私が消えても、私は貴方の傍に居ます」

「光…!」


このままずっと抱きしめていれば光は消えねぇかい?

だったら俺はずっと抱きしめてる

仏になんか渡したくねぇ…!


「…楽しみ、です」

「は?」

「鯉伴様が、二代目となり、奴良組が強くなって…そして…」
「…」

「鯉伴様のご子息が、生まれて…そんな賑やかな奴良組が、楽しみです」

「…!」

「ね」


光はいつもそうだったな…どんな時でも笑ってくれて…

なのに俺は小せぇ餓鬼みてぇに泣いて、光を困らせて

こんなんじゃあ立派な二代目になれねぇ…笑わねぇ、と


「…そうだな」

「…」

「何年、先になるか分らねぇけどッ俺も楽しみだ」

「…鯉伴様」

「光…俺、光と出会えて本当に良かった」

「私もです…最期に大きくなった鯉伴様と過ごせて、良かった」


こんなに泣いたのはお袋が死んだ時以来だ

泣かないって決めたのに…駄目だな、俺


「光」

「はい?」

「俺…もう泣かねぇ」

「…はい」

「泣いたらまた光心配するよな?だから俺、泣かねぇよ」

「強くなられました、ね」

「はは………っ」


気づいた

光の身体が徐々に薄くなっている事に


「光…!」

「もう…時間、ですね」

「まだッ言いてぇ事沢山あんのにッ!消えないでくれよ…頼むからッ」

「鯉伴様…私は幸せでした。十分過ぎるくらい」

「――ッ!」

「有難う、ございました……鯉、伴…様…」

「、光ッ!!」


徐々に消えていく光

何度も名前を呼んで消えていく身体を抱きしめた

その時、光が何かを言い残して消えて逝ってしまった


「…ッ」


俺は知っている。最期に残した言葉

"ず っ と 傍 に 居 ま す"

光は逝ってしまったが…俺の傍にいてくれる


「光…見てて、くれよ」


俺、必ず光の願い叶えるからな…――――








「――今日より、二代目の座をワシの息子、鯉伴に譲る。何か不満がある者はいるか?」

『…』

「いぬようですな」

「決まりじゃ…これより奴良組二代目は奴良鯉伴じゃ」

「…」


光…

俺、二代目になったぜ

見ててくれているかい?俺の晴れ姿を―――