「光…すまねぇ、約束したのに」

「鯉伴様」


申し訳なさそうに私に謝る鯉伴様

鯉伴様が謝る事ではないのに…


スゥッ

「っ」

「謝らないで下さい。鯉伴様」

「けどよっ」

「鯉伴様。私いろいろ考えたんです」

「…」

「確かに私は消えたくありません…鯉伴様のお傍にずっと居たいんです」

「だったら…!」

「ですが。それよりももっと叶って欲しい願いを見つけてしまったのです」

「…叶ってほしい、願い…?」

「それは…鯉伴様。貴方が立派な二代目となってくれる事なのです」


きっとこの方は奴良組を率いる立派な二代目となれる

でも、私のせいでそれが危うくなってしまうのは嫌…

だから私はもう消えても構わない。鯉伴様が立派な二代目になってくださればそれだけで十分なんです


「それ、だけなのかい…?」

「はい。鯉伴様が立派な二代目となってくだされば私はそれだけで十分なのです」

「…もっと、ねぇのかい?他にいろんな事」

「…ありません」


そのような悲しい顔をなさらないでください

私まで悲しくなります…


「鯉伴様…大切なのは未来ではなく今です」

「…」

「だから、残された時間は一緒に居てくださいませんか?」

「光…」

「そして…私の願いを叶えてください」


微笑みながら言えば、鯉伴様は私を抱きしめてくれた

きっと今私の言葉は鯉伴様には分って頂けないかもしれない

でももう少し大人になったら、分ってくださるでしょう


「俺…」

「?」

「光がそう望むなら…俺頑張る。絶対二代目を継いで今よりも凄ぇ奴良組にしてみせる」

「…はい」

「光、ずっと俺の事見ててくれるかい?」

「片時も離さず見ています」

「なら安心」


分っていただけたのでしょうか…?

鯉伴様の表情を見れば分る。少なくとも少しずつ分ってくださっている


「光。これから江戸の町に行かねぇかい?」

「江戸の町、ですか?」

「あぁ。行った事なかっただろ?楽しいぜ。いろんなもんがあって」

「はい。是非」

町へ行くなんて初めて

鯉伴様も一緒だからだろうか…とても嬉しくて楽しみです

それから楽しい日々が過ぎていった

沢山の人が居て、賑やかで…とても楽しい一時でした


「俺さ…この江戸の町が好きなんだ」

「え」

「江戸の人も江戸の町もみんな好きだ…だから夜になっても遊びに行っちまうのかね」

「…鯉伴様らしいですね」

「?」

「この江戸を慕う気持ちがある鯉伴様ならきっと立派な二代目となれるでしょう」

「親父よりも立派になれるかい?」

「はい。なれます」


きっと半妖である鯉半様だからこそ思える事なんでしょうね

…消える前に本当に素敵な思い出が出来ました

奴良組と出会い…鯉伴様を慕い、江戸を見れて…もうこれ以上のない幸せでした


「光」

「はい」

「俺はずっと光の事好きだ」

「私もです。ずっと鯉伴様の事をお慕い申し上げます」


触れ合う互いの唇

きっと私はこの感触を消えてもずっと忘れないでしょう

有難うございます。鯉伴様

貴方に出会えて本当に良かった







「親父」

「、どうした?」

「鯉伴様?」

「いつになったら総大将の席譲ってくれるんだい?」

「そうじゃのー………………は?」

「そ、総大将…!」

「…どういう風の吹き回しじゃ?」

「光と約束したんだ。絶対に二代目になって今よりももっと凄ぇ奴良組にしてみせるってな。だから親父。今すぐ俺に二代目の座を」

「皆の者おおおお!!聞いたか!鯉伴様が二代目表明を示したぞおおお!!」

「カラス天狗うう!?」