夜を照らすもの


「すっかり遅くなっちまったなぁ」


辺りはもう暗い

慣れれば歩きやすいだろうが…目が慣れるまでこりゃあかかるな


「まーた親父に怒鳴られる…いや、最初はカラス天狗に怒鳴られるな」


どっちも嫌だけど…今夜ばかりは仕方ねぇよな

だって今夜は曇りで月が出てねぇから真っ暗だし。これだけ理由ありゃあ怒られねぇよな


ポゥ

「…っ…ホタル…?」


俺の目の前にホタルが通り過ぎた

そういやぁもうそんな季節、か…小せぇ頃は親父と一緒にホタル見たっけな


「おやじー虫が光ってる」

「おーもうホタルの季節なんじゃな」

「ホタル?」

「尻を光らせて飛ぶ虫じゃ」

「へー綺麗」

「そうじゃな……でもな?鯉伴」

「?」

「ホタルは長い年月を経て成熟するが外に出て生きられるのが長くて10日なんじゃ」

「え…なんで?妖怪は何百年も生きるのにどうしてホタルはそんなに短いの?」

「なんでじゃろうな。それはワシにも分らん」

「…」



今飛んでるこいつも…10日くらいしか生きられねぇんだろうな

こんなに綺麗なのにどの生き物よりも儚い生き物…


「…?」


暗闇から足音が聞こえてきた。振り向けば正直驚いた

沢山のホタルの中に一人の女が歩いてくる。長い髪に綺麗な瞳…一瞬で目を奪われたと悟った

女は俺の前で止まって微笑んだ…その表情も綺麗で深い瞳には吸い込まれそうだ


「鯉伴様…また夜遊びですか…?」

「ぇ…」

「…いけませんよ。二代目となるお方が」


何故俺の名前を知っているのだろうか

驚いて固まっていると女は俺を通り過ぎて止まり


「…これから帰るのでしょう?」

「あ…あぁ…」

「送って行きます…このように暗闇の道でお一人は危ないですので」


着いて来て下さい。と言い女は歩き始めた

俺も歩くと周りのホタルは俺達を包むように飛んでいた

…名前が知りたい


「なぁ…お嬢さん、名前は何て言うんだい?」

「…光、でございます」

「光…綺麗な名だな」
「恐縮です」

「…なぁどうして俺の名前知ってんだい?」

「ぬらりひょん様とは知り合いで…これでも鯉伴様がまだ赤ん坊の頃に一度お会いしているんですよ」

「……本当か?」

「はい」


おいおい何やってんだよ俺

こんな綺麗な奴の事覚えてねぇなんて…大失態


「光は妖怪なのかい?」

「…一応…妖怪に入ります」

「一応?つー事は半妖って事かい?」

「んー…鯉伴様とは少し違いますね」

「なんだそりゃ」

「ふふ」


綺麗な声に綺麗な微笑み…どこまで綺麗な奴なんだろうか

もっと知りたい。光の事が…もっと

こんなに誰かに興味持つのは初めてだ


「ぬらりひょん様はお元気ですか?」

「え」

「最近顔が出せませんでしたので」

「親父よりも俺の話してやるぜ?」


光には俺の事を知ってもらいたい

勿論俺も光の事を知りたい

もっと互いを知り合いたいんだ


「ふふ…では鯉伴様はいつから夜遊びをするようになったんですか?」

「おいおい。いきなりそんな話かよ」

「あら、言えない程の理由がおありですか?」

「別に言えなくはねぇけど…そうだな。夜の世界に興味があってな」

「昼の世界はお嫌いで?」

「いいや?只昼の世界は見飽きたから」


それから色んな話をした

楽しかった。別れるのが名残惜しい程だ


「それでは私はこれで」

「おう……光」

「はい?」

「また、会えねぇかい?」

「…夜になってしまいますが…この近くの川の傍に居ます」

「じゃあ明日また話そうぜ」

「…はい」


これでまたお前ぇと話せる

それだけで俺は嬉しい。今から楽しみなんて相当だ













「…全員寝て誰も居ねぇよな」

「拙者が居ますぞおお…!」

「ぅわっカラス天狗!?」

「鯉伴様!また貴方は夜遊びを!度が過ぎますぞ!」

「お前ぇはまた小さくなった気が…」

「黙らっしゃい!!」