母と…息子と…



「…」

「…」


急に屋敷に戻れって連絡来て行けばこれだ

親父の小難しい顔…親父がそんな顔するのは決まって同じなんだ…


「あー…鯉伴…あのだな、」

「…」

「その…さっき鴆一派が来てよ」

「っ」

「言いにくいんだが…」

「…分ってるよ。親父」

「お前…」

「俺ぁ何年親父の息子やってると思ってんだい?親父の顔見りゃあ嫌でも分っちまう」


命を延ばす方法、見つからなかったんだよな

そうだよな…そんな方法あんなら親父はお袋にしてらぁ


「あーあ…これで成す術無し、か」

「鯉伴」

「…なぁ、親父?」

「なんじゃ?」

「なんで…ホタルって儚ぇのかな?」

「っ!」

「なんで、光は妖なのに長く生きられねぇんだい?」

「鯉、伴ッ」

「なんでッあと、一週間もねぇんだよッ…」


涙なんて流したのは、お袋が亡くなった時以来だった

そういやぁあの時も今と同じくらい悲しかったな…

半妖だからっつって人間が学ぶ学問を学べと煩かったお袋。俺はカラス天狗が教えてくれてもすぐ抜け出してはカラス天狗やお袋に怒られてたっけ

でも、友人が困ってて出入りだって騒いでみんな俺を止めてた時、お袋は強い眼差しを俺に向けて言ってくれたな…


"友達のために戦うのでしょう?あなたが正しいことをしようとしているのに、どうして母が止めることがありましょう。胸を張って戦ってきなさい、鯉伴――"

「…あ…俺…」


俺は…光をどこか、お袋と重ねて見ていたのかもしれねぇ

光はどこかお袋に似ている部分があった…優しい印象とか、


「…俺もまだまだ餓鬼だなぁ…」


光、お前ぇもそうかい?

俺の事…自分の息子みたいに思う所あったんじゃねぇの?


「あら、鯉伴。今日は行かないの?」

「雪麗さん…急に親父に呼び出されたし、光は今日は留守」

「そう」

「…なぁ雪麗さん」

「何?」

「俺さ…光のとこ、どこかお袋と重ねて見てた時があったんだよな」

「…あんた達って本当に恋仲の関係なの?」

「なっ…酷ぇな、おい。俺はちゃんと光の事好きだってーの」


只、ふっと思う時があるだけ

雪麗さんははぁ、とため息をついて俺に言った


「あんた達って似てるわよねー」

「は?」

「いつだったかしらね?光も似たような事言ってた時あったのよ」

「えっ」

「鯉伴が…そうね、まだ赤ん坊の頃だったわね。あの子言ってたのよ。"鯉伴様を抱いているとなんだか私まで母親になった気分になります"って」


光が…そんな事を

なんだか嬉しいような、複雑のような…俺達って考える事一緒なのかも


「だうっ」

「ふふ」

「光。桜姫が鯉伴の子守をして下さって有難うございます、だってさ」

「いえ…鯉伴様は本当に良い子ですね…雪麗さん」

「ん?」

「母親というものは…とても温かいものなんですね」

「…」

「鯉伴様を抱いていると分ります…これが、母性なんだと」

「…あんたもいつか本当の母親になる日がくるんじゃない?」

「私なんて…なれませんよ」

「…」

「だから…こうして鯉伴様の子守をしている間だけでも母親になれて幸せです」



「今思えば…あの子あの時から自分があとどれくらい生きれるか知ってたのかもね」


光…

なんだか照れるなぁ…赤ん坊とは言え、光に色々世話されてたなんて

でも…そう聞かされるとさぁ…


「やっぱ光と離れたくねぇなぁ」

「…」

「俺だって光と夫婦になって、光との子だって欲しいし、父親になりてぇし…考えれば考えるほど苦しくなんだよな」


ドテッ

俺は縁側に寝そべった

どうして俺達両想いなのに離れなきゃいけねぇんだろうな

妖だから?例えそうであったとしても、俺達だって人と同じように生きて誰かを好きになって夫婦になって生きていくんだ…

本当、酷ぇよな…


「…出会わなければ良かった、なんて言うんじゃないでしょうね?」

ガバッ

「んな事ッ…!」

「あんたはまだ餓鬼なんだから、大人と同じく深く考えるんじゃないわよ」

「…」

「最期まで二人で一緒に居れば良いじゃない。もっと長く一緒に居たい、とか寿命が長くなる方法見つける、とか…はっきり言ってあんたは現実逃避してる」

「…っ」

「今ある時間を、どれ程幸せに過ごせるか…それだけ考えなさいよ…」

「雪麗さん」

「これ以上あの子を苦しめないの…分ったならとっとと行って残りの時間を光と一緒に過ごしてきなさい」

「…でも俺…」

「…」

「やっぱ、辛ぇよ…」


俺は弱虫

餓鬼だからとかじゃない…男として俺は弱虫だ――








ガサッ

「…鯉伴様」

「光…」