あとどれくらいだろうか、




鯉伴様が私のために言ってから二日が経つ

私はまだ生きてる…消えていない

それだけで嬉しくて堪らなかった……嗚呼、鯉伴様にお会いしたい


「…鯉伴様…」


私は長く生きるよりも…残りの時間を鯉伴様と共に過ごしたい。そう思うようになっていた

そんな事を言っては駄目ね。鯉伴様は私のために今頑張っているというのに


「光」

「っ…雪麗さん?」


珍しかった…雪麗さんから私の場所へ来るなんて

…何かあったのだろうか?


「こんな事…あんたに頼んで良いのか分からないけど…もうあんたしか居なくて」

「え」

「鯉伴ね、二日も家に帰ってこないのよ」

「っ」

「理由は誰だって分ってるわよ…でも、このままじゃあの子倒れちゃいそうで」

「…申し訳ありません…私のせいで」

「光のせいじゃないわよ!…あの子今前が見えなくなってるのよ」

「…」

「好きな人のために何かするっていうのはとても良い事だと思うわよ私は。でも…前が見えなくなってしまうのは違うと思う…」

雪麗さんの言うとおり…妖怪の話を小耳に挟んだのだが

何でも鯉伴様を見つけて声をかけても鯉伴様は聞こえないのか、無視をされてしまうとか

二代目になるお方がそれではいけない…奴良組の信頼にも関わる…それに、

鯉伴様が倒れてはいけない…!



「はぁ、はぁ…鯉伴様…」


森の中を探し回った

森に住む妖怪にも聞いてみたけど今日は誰も見ていない、と…どうしよう

もし鯉伴様が倒れていたら…そんな事を思うと私の足は次第に速くなっていた


「っ……あ…!」


どれくらい走っただろうか、やっと鯉伴様のお姿を見つけた

お声をかけようとしたら何かに躓きドサッと倒れてしまった

その音に気づいたのだろう…鯉伴様が振り向き辺りを見渡していた

ゆっくりと起き上がると鯉伴様は私に気づいて急いで駆け寄ってきてくれた


「光!」

「鯉伴、様」

「大丈夫かい…?」

「はい。石に躓いてしまったようです」

「こんな所にどうしたんだい?」

「鯉伴様を探していました」

「俺を…?」

「鯉伴様…どうか一度お屋敷へお戻りください。皆が心配しておられます」


私の言葉に鯉伴様は顔を歪ませた

何故、そのように悲しい表情をするのですか?


「光、俺ぁまだ…見つけられてねぇんだ」

「…」

「見つけるまではっ帰らねぇって決めてんだよ」

「…嫌です」

「え」

「私のために探して下さって凄く嬉しいです…ですが、そのせいで鯉伴様が倒れてしまったら私は嫌です」

「光」

「鯉伴様、ご自分の体調の方もお気遣い下さい」


フワッ

瞬間、私は鯉伴様の腕の中にいた

鯉伴様の温もりが伝わってくる


「光が心配してくれて今凄ぇ嬉しい」

「…鯉伴、様」

「俺なら大丈夫だって。光は何も心配いらねぇ」

「で、でもっ」

「飯だってカラス天狗が持ってきてくれるし、ちゃんと睡眠も取ってる…だから大丈夫だ」

「…」

「そんな顔すんなって…」


私は無言で鯉伴様の背中に腕を回した

恐い…消えてゆくのがこれ程恐いと思ったのは初めて

消えたくない…ずっと、鯉伴様のお側に居たい…


「今日は光が甘えん坊だな」

「どうしてでしょうか」

「?」

「貴方と過ごす度に、惹かれていってしまうのです…恐いくらいに」

「光…」

「だから思ってしまう…消えたくない…と」

「っ」

「もっと…ずっと鯉伴様のお側に居たい。消えたくありません…!」

「俺が消えさせたりしねぇ…絶対にだ」


貴方とこうして抱き合っている時間がとても至福の時です

この時がずっと続いて欲しいと願う私は欲張りでしょうか?

ホタルは…欲張ってはいけないのでしょうか…

私達ホタルだってもっと長く生きたい…もっと沢山の事を知りたいのです


「鯉伴様…今日は、私のお傍に居てくれませんか…?」

「光の頼みなら断る理由なんてねぇよ…俺達はずっと一緒だ」

「…はい」


何故、ホタルは儚いのでしょうか

ホタルは何故綺麗なのにすぐに散ってしまうのでしょうか

私達ホタルにも分りません…誰にも分らない

誰でも良いので教えてほしい…――








「――――ご苦労さんだったな」

「いえ…お役に立てられなくて申し訳ありません」

「お前らのせいじゃねぇさ…うちの息子が無理言って悪かったのう」

「…この事を鯉伴様には」

「……ワシから伝えておこう」