※兄視点初めてだ。
その言葉を聞いた途端、焦りと不安が俺の中で込み上げた
今までどんな状況でも取り乱さないよう心がけてきた筈なのに…その言葉だけはどうしても無理だったんだ
「…っえ…!」
「どうしたの?薫。電話誰よ?」
「じ、慈雨ちゃん…それ、が」
「?」
「おい二人して何突っ立ってんだ?」
「若っ…お嬢が…!」
「…―――っ!」
椿はたった一人の家族で俺の大切な妹だ
親父とお袋が二人揃って死んじまって椿を傍で見守るには祖父のこの桜田組に行くしかなかった
最初は不満で仕方なかった。例え妹と居れるとは言え、親父が嫌と言うほど嫌ってた親父の実家に行く事になって…
でも、段々来て良かったと思えるようになった。妹も楽しそうで…俺は椿が笑ってくれさえすれば良かったんだ……なのに、
"お嬢が学校の階段から落ちて病院に運ばれたって…"
「……こだ、」
「え?」
「病院はどこだって聞いてんだっ!!」
「っ!!」
「ぁ…い、医大の方に」
「っ」
ダッ!「ちょっ…若ぁ!」
無我夢中で走った。周囲の事なんざお構いなしに
心配で心配で…胸が張り裂けそうで、俺は只…椿の安否だけが心配だった
「はぁ、はぁ……はぁっ」
「…若…!」
「聖…はぁ…椿はっ」
病院に付いて場所を聞いていけば、聖が病室の前に居た
後から宗助も出てきて俺を見るなりギョッとしていた
「若……すいません!俺が付いていながらっ!」
「宗助、今は良い…それより椿は…?」
「…ぁ…此方に」
病室の中へ通され、中にはベッドの中で眠る椿が居た
「…軽い脳震盪だそうです」
「なんだ…椿が病院に運ばれたって聞いたからもっと重症かと思っちまったじゃねぇか…」
「若」
「…で?なんで椿はまだ目ぇ閉じてんだ?軽い脳震盪なら目ぇ覚めて良い頃なんじゃねぇの?」
傍に近寄っても一向に覚める気配のない妹
軽い脳震盪ってこんなに気絶するようなもんだったか?
次の宗助の言葉で俺の安心はまた不安へと消える
「その…」
「?」
「…お嬢、落ちた時から未だ目ぇ覚まさないんです」
「、」
「医者が言うには…原因は脳震盪じゃなく……精神面、かもと」
「精神、面?…なんだよそれ」
「精神的に傷つくと、現実から逃げたくなって目を覚まさなくなることがまれにあるそうで…後、お嬢の頭の打ち所によると"自分からではなく誰かに落とされた"可能性が大きい、と」
ドクンッ
誰かに…落とされた?どういう事だよそりゃあ…
…あ…そういやぁ最近怪我して帰ってくる事が多かった。椿は転んだとか打ったとか言ってたが…まさか、
「すいません!若!俺が側近でありながらお嬢を守る事出来なくてっ!!」
「…」
「お嬢を守る事が役目だってのに!俺ぁ傍に居ながら何も出来ずに…!すいません!!」
「…誰だ…椿を落としたのは」
「っ」
「宗助」
「っ!はぃ…」
「本気で悪いと思ってんなら、椿を突き落とした奴を必ず見つけ出せ…!」
「「!!」」
「どんな手ぇ使ってでも良い…必ず見つけ出して俺の前に連れて来い…!!」
「、承知しました…!」
…ごめんな、椿
俺がもっと早くお前の事を聞いていれば…俺は甘かった。お前の事なんだからお前に任せると思った俺が悪かった
「…椿…ごめんな……お兄ちゃん失格だな…」
慈雨side―
「はぁ、はぁ…宗助!聖!」
「あ、慈雨」
「お嬢が突き落とされたってどういう事よ!」
いきなり若が飛び出して行って驚いたけど、お嬢が階段から突き落とされたって聞いて更に驚いた
どうりで若が…竜輝が取り乱す訳よ…
後ろに居る、薫や京次郎や昴、みんなも不安なのよ
「お嬢…学校で何かあったの?」
「…」
「…宗助…」
「それは…今は言えねぇ」
「はぁ?何よそれ!あんたお嬢の側近でしょ!?知らなかったじゃあ許されないわよ!」
「慈雨」
「っ?」
「…言いたくても言えないんだ。お嬢に口止めされてる」
聖の言葉の意味…今の私には理解出来なかった
なんでお嬢は庇うの?さっさと言っちゃえば良いのに…!
「…、昴君?」
「入院するんですよね?…着替えもってきますよ」
「すまねぇ、昴」
「…いえ」
「待って。私も行くわ」
昴と薫が居なくなって、私達はこれ以上言葉が出なかった
「…若」
「京次郎か…どうした?」
「…お嬢の事、俺に任せてくれませんか…?」
「え?」
「若には、仕事があります…それに…俺が入院した時は、お嬢が傍に居てくれた…だから今度は俺がお返し…する番、です」
「京次郎…有難うな」
「…」
「そんじゃあお前に任せるよ…」
「はい」