普通の女の子



スゥッ

「…あら?お嬢どこに行ったのかしら…?」


やばいやばいっす…!

俺今あの桜田組の中に居るんす!全国的にその名を轟かしている任侠一家

ドラマの話だろーとか、俺一般人だし生きてる内に関わることねぇよ!とかクラスの奴等と話してた矢先にこれ…

つーか…椿先輩って…こんな物騒なやくざの人たちと関わってたのかよ?


「…ちょっとー誰か居ないのー?」

「……どうした…?薫」

「あ、京次郎。お嬢見なかった?」

「お嬢なら…庭で鯉の、餌やりしてる」

「あ、そう……じゃああんたに任せるわ」

「…は…?」

「この二人をお嬢のところに連れてってあげて。用事あるんだって」

「…」

「よろしくね」


え、ちょっマジッすか!?こんな怖そうな人に任せるんですか!?

お、俺命欲しいっすよ!まだ生きていたいっす!

……つーかこの人…………俺と髪型似てねっ!?


「…」

「…」

「…」

「……付いて来い…」

「あ、はい…赤也。行くぞ」

「ぅ、ぅいっす…!」


マフラーをつけた男の人に付いて行った

つか熱いのによくマフラーとかしてられるよな…うん

少し歩くと、広い庭がありそして池の傍で着物姿の椿先輩がしゃがんでいた

いつもと違う雰囲気にドキッとしてしまう俺がいた


「お嬢…ご学友の方がお見えになっています」

「…ご学友?…………」

「ち、ちわっす。先輩」

「…」

「…ええええええ!!?」

「お嬢!?」

「先輩!?」

「むっ」


ズルッ―――ドボーンッ

そのまま椿先輩は足を滑らせて池に落ちてしまった

慌ててマフラーの人が駆け寄って助けた

その後多くのやくざが出てきて正直凄ぇ怖かった




俺と真田副部長は廊下で待ってると椿先輩の部屋の襖が開いてさっきの女の人とはまた別の女の人が出てきた


「もうお嬢着替え終わったから入って良いわよ」

「あ、はい」


女の人はそう良い残すと行ってしまった

真田副部長が先に入ったからその後俺も入ると椿先輩は鼻をかんでいた
「近藤。大丈夫か」

「あ、うん……急に来たから驚いちゃった」

「すまない。事前に伝えておくべきだったな」

「…」

「…驚いたよね切原君」

「そ、そりゃあ…あの桜田組、だし…椿先輩ここの人達とどういう関わりなんすか!?」

「…」

「赤也」

「私…ここの26代目組長、桜田栄吉の孫なの」

「え」

「それで9歳年上の兄さんは次期27代目組長候補だし」


まさか…先輩がやくざの家系だったなんて…

言葉が出てこない。それが失望のせいなのか、怖いせいなのかは定かじゃねぇけど

今言える事は……


「騙された気分?」

「っ」

「そうだよね。私の見た目からじゃあそんなの想像できないし…別に騙す気もなかったんだよ」

「…」

「只、私が"普通の女の子"で居るには隠しておかなきゃいけなかったの…それだけの事」


先輩の言う"普通の女の子"ってどういう意味だか俺には全然分からなかった

俺から見りゃあみんな"普通の女の子"の筈なのに…


「…お願いがあるの、切原君」

「えっ」

「この事は黙っててほしの…今まで騙しておいてそれはないだろと思うだろうけど…でも、私学校中にバレたらまた居場所がなくなっちゃうの」

「…」

「お、俺っ――ガシッ


……へ……?

な、なんか…頭痛いんすけど…なんか頭掴まれてるような感じするんすけど…

ゆっくりと振り返ると俺を凄い険悪な目で睨む人が居た…!!


「…おい、黙ってるよな?勿論…」

「…!!(カタカタカタッ」

「聖さん!?それ脅しだよ脅し!」

「だ、だだ黙ってます!黙ってますんでお許しをおおお!!」

「……よーし。良い子は俺好きだよ」


パッ

さっきまで睨んでいた聖さんと呼ばれる人は満面な笑みで手を離した

こ、怖い……もうそれしか出てこない


「ごめん!切原君大丈夫!?」

「…寿命が5年縮んだ…」

「もう…聖さん一体何の用?」

「たまたま通りかかったんで…あ、俺仕事あったんだ。行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい」

「…やはり須川さんはギャップが激しいな」

「多分それ組が関係してるかも」

「さ、真田副部長あの怖い人知ってんすか!?」

「あぁ。以前胸倉を掴まれた…それにあの人は我が部の先輩だ」

「ええええ!!」


あ、あんな人が元テニス部に居たんすか!?

ヤバイ!もうそれしか出てこない!


「近藤。来月の部活の予定表だ」

「あ、有難う」

「…先輩、このまま続けるんすか?」

「…うん。やるって決めたからには最後までやらなきゃ」

「…」

「しかしこれで我々は桜田組に喧嘩を売ったな」

「え」

「桜田組若頭が知ったらどうなると思うんだ。今は幹部の高村宗助と須川聖が黙っているが、他の者に知られたらいっかんの終わりだ」


…それって…どういう事だ?

俺達…命の危険って事!?」


「そ、その事は私が何とかするから」

「でも!少なくとも俺達今危ない橋を渡ってるのと同じなんすよね!?まずいっすよ!早く幸村部長に言って何とかしないと!」

「だがそうなれば近藤の身元がバレてしまいまた近藤は転校という形になってしまうだろうな」
「そんな…」

「…ごめんなさい。私のせいで」

「近藤。これはお前のせいではない…正直、幸村…いやテニス部全員の責任だ…たった一人のマネージャーのためだけに道を踏み外してしまったのだからな」

「…」


俺があの時、部長に反抗していたら何か変わっていたのだろうか

俺が先輩達に恐れずに何か言っていれば……

今からでも…遅くないかな…?


「そろそろ時間だな。俺達は帰るとしよう」

「あ、はい」

「今日はわざわざ有難う」

「いや」

「明日はちゃんと来て下さいね…それと」

「?」

「俺、騙されたなんて思ってないっすから!先輩には先輩の事情があるんだし」

「…切原君」

「へへっ」


やっぱ椿先輩は笑った顔が一番だ

やくざの家系だとしても、先輩は俺にとって普通の女の子でしかないんだから

俺は、いつでも椿先輩の味方っすから

ここは俺も後輩としてやらなきゃいけないんだ

部長達のために…詩織先輩のために…













「なんだ、もう帰るのかい?」

「兄さん」

「あ、はい…お邪魔しました」

「いやいや、妹のために有難うな」

(…こう見ると普通の人っつーか優しいよなぁ)

「まだ暑い日続くから部活無理すんなよ。まぁこんなんじゃ花もバテるか」

「……花?」

「そう、花。あんた達"園芸部"だろ?毎日花の世話ご苦労さん」

「「……!!?」」

「…ごめんなさい…」
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