見られて知られてしまった



「あ、聖君か京次郎君にお願いがあるんだけど良いかしら?」

「どうしたの?薫さん」

「お嬢がね?今日お弁当忘れちゃって…どっちか届けてほしいの」

「…今行けば…着くのは昼…」

「今暇なの二人だけでしょ?どうかしら」

「…聖が良いんじゃないか…?」

「………俺…?」















「ねぇ近藤さーん。そろそろマネージャー辞める気になった?」

「っ…!」

「辞めなくちゃどんどん痛い目合っちゃうよー」


今日も呼び出し

日に日に増えてく…でもこれで日向さんの呼び出しが少なくなるんだ…我慢我慢

こういう日に限って宗助さんは仕事でいないんだよね


「ねぇ聞いてる?」

「私はっ…辞めません」

「ウザッ!」


ゲシッ!

一人の子にお腹を蹴られた拍子に尻餅をついた

痛い…乾いた咳があたりに響く。その後に女の子達の甲高い笑い声が私の咳をかき消す


「私今軽く蹴っただけだよねー?」

「よっわー!そんなんで良くマネージャー入れてもらったねー」

「つかコイツの場合媚売ったんだよ」

「そだねー」

「けほっけほっ…」

「ねぇ早く立ってよ…あ、それとも何?私達に蹴られるの待ってるぅ?」

「ぅわっ!それってドMじゃん。マジキモイんですけど!」


彼女達の声に吐き気がする…

甲高い笑い声にもイライラする。耳に響いて鼓膜が破れそう


「ねぇ、聞いてんのッ!?」

「―――、」

『っ!(ゾクッ』

「…ぁ…」


いけない…つい睨んじゃった

多分普通に睨んだだけなんだけど…彼女達が一瞬怯えたた表情をしたのならやっちゃった

こういうところが…やくざの家系の血なんだろうね


「このっ…何もしないくせにムカつくんだよっ!!」

「っ!」


一人の子が腕を上げてきた

殴られると思った私は頑なに目を瞑った


「ぃたっ!」

「!」


痛みはなく逆に女の子の痛がる声が聞こえて目を開けると

私は唖然とした………だって


「…何をしてるのかな…?」

「っ…ひ、聖…さん」

「ぃ、ぃたい!は、離しっ」

「何をしてるのかって聞いてんだよ…」

「な、何この人」


ギリッ

聖さんは私を殴ろうとした子の腕をこれでもかというくらいに強く掴んでいた

その証拠に彼女の顔は痛みで歪んで今にも泣き出しそう

…それよりも…聖さんにバレてしまった…


「お、お願い…!は、離してぇぇ…!」

「俺に指図?…良い度胸してるよね…俺ね、お前等みたいな奴が一番嫌いなんだよ…」

ギリリッ…!

「ぃっ…!!」

「ま、まずいよ…せ、先せっ」

「教師なんて呼んだらお前らの腕の骨、こいつみたいに折るよ…?」

「ぃ…たいっ!痛い痛いいいい!!!」


ここまでやって未だに笑顔のままの聖さんが怖い…じゃなくて!

ま、まずい!このままじゃ本当に腕折っちゃう!

私は立ち上がって聖さんを止めようとしたら


「そこで何をしているっ!」

『っ』


大きな声がしてみんな驚いた

聖さんも驚いて掴んでいた腕を離すと女の子は掴まれた腕を押さえながら倒れこんだ

その友達が慌てて走りよっていた…大声を出した人は……これもまさかの


「…真、田…君」

「おや…君は…」

「我が校の生徒に何をしている。部外者の分際で」

「何?君先生?」

「っ俺は生徒だっ!」

「あーそう…でもさっきの言葉そっくりそのまま返すよ」

「何?」

「…"うちの大切な人"に何してやがんだ…」

「っ!」

「ひ、聖さん…」

「"今の"立海はどういう教育してんの?我が校では殴る蹴るの暴行は許可してます、かな?」

「んな訳あるかッ!」

「じゃあなんだよこの状況はぁッ!!」

「「っ!!」」


まずい…まずいまずいまずい!

聖さんが本気で怒ってる…このままじゃ真田君まで殴られる…!

ゆっくりと真田君に近付く聖さん…でも真田君は表情一つ変えないで立っていると

聖さんはガッと真田君の胸倉を掴んで今にも殴りかかりそうな…!


「…その顔…貴様須川聖だろう」

「あはは。よく俺を知ってるね」

「勿論だ…元テニス部部長の顔など今でも部室に飾っているからな。しかし今の貴方はそういう風には見れん…関東を全て仕切る桜田組の幹部、須川聖…今の貴方の肩書きだろう」

「…」

「何故あんなにも輝いてた貴方がやくざなどという任侠の世界へ行ってしまわれたんだ」

「君には関係ないね…それに今はそんな話しているんじゃない」

「…」

「なんであの方が女達に殴られていたか…君知ってるんだよね?教えてくれないかな?」

「それは……教えたらどうするつもりだ」

「…場合によっては、きっちりとおとしまえは取ってもらうね」

「……近藤」

「…」

「お前は…まさか――――」


真田君が何か言いかけた時だった


「―――聖止めろ」

「っ……宗助、さん」

「…やはり高村宗助だったか…なぜ桜田組幹部の二人が…」

「ここの生徒さんには手ぇ出すな」

「なんでだよ…"お嬢"が殴られてるのに黙って見過ごせって言うのかよっ!」

「今はそれで言うんじゃねぇ!」

「っ!」

「…おいアンタ」

「…」

「今見た事は忘れてくれ…こっちも素性バレたらまたあの方の居場所、無くなっちまう」


そう言うと宗助さんは私の方にゆっくりと歩み寄って


「…すいません…守れなくて」

「うぅん…きっとあの子達も宗助さんが居ない時を見計らってやってるんだと思う…でも」

「大丈夫…聖には俺から話します。今日はもう早退しましょう」

「……俺は納得できない…」

「聖さん?」

「俺はお前が側近なんて納得できない!俺が側近ならこんな事させないッ!」

「聖大人になれ!ここで騒いだ所で何も解決出来ねぇんだよ」

「でもッ!!」

「それに本当に悪い奴は他にいんだよ……なぁ?アンタ」

「っ」


真田君は少し顔を歪ませた

…駄目だこんなの…!


「もう良いよ。帰ろう」

「…」

「真田君。この事は黙ってて…お願いします」

「…一つだけ良いか?」

「え?」

「お前が…桜田組27代目若頭桜田竜輝の妹、なのか?」

「………うん」

「なら何故苗字が違うんだ」

「それはこの方が普通に学校通えるように母方の姓を名乗ってんだよ」

「…そうか…」


真田君は一言そう言って行ってしまった

…真田君は嘘をつかない人だけど…

これで終わってしまったかもしれない。聖さんに知られてしまったんだから

兄さんに知られるのも時間の問題だよね

…最悪だ
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