それぞれの思い


「…これはどういう事じゃ…」


雰囲気で分る。淀殿が怒りに満ちておられる

言わんばかりに妖気を放ち、部下の我々もうろたえるほどだ

…千鶴、何故


「サトリ!鬼一口!」

「ヒッ!?…えと、門の傍で警備をしていましたら、千鶴様が、来られてッ」

「それでどうしたのじゃ?」

「散歩に出かけたいと申されたので、危ないと申し部屋へ戻るよう言ったのですが…む、無理に出ていかれて」

「止めようと着物を掴んだら、お脱ぎに…」

「ッ…役立たず共がッ!」


淀殿は我等の方へ振り返った

その表情は鋭く、どれ程焦っているか私でも分った


「何をやっておるのじゃ!手分けして千鶴を探せ!絶対に千鶴を家に帰らせてはなやぬ!」

『はっ!!』


私を含め全ての部下は四方八方へ散らばった

…淀殿が焦っているのは誰もがわかっている。誰も千鶴に悲しい思いをしてほしくないのだ

私だってそうだ。千鶴には笑っていてほしい。悲しい思いをしてほしくはない


「…全ては…妾の責任じゃな。妾がもっと…厳重に保管しておれば…」






千鶴side―



「はぁ、はぁ…っ」


分ってる…こんな事、皆様にご迷惑をかけるだけだと…

どんなに走っても私の足では今夜中でもそう遠くまではいけない。でも走らなければならないの


「っ…お母ちゃん…!」


大阪城に行く前、目に涙を浮かべながらも微笑みながら見送ってくれた母

病気だったとはいえ私が行く前お金を沢山頂いたからこれでお母ちゃんも治るとずっと安心していたのに…

そういえば冬子にお母ちゃんの事聞いた時少し様子が可笑しかった…まさか悪化していたなんて…!!

嫌…嫌だよ…お母ちゃん死なないで…!


ザッ

「っ!?」

「…千鶴」

「しょうけら、様」

「夜は妖が出歩く。出会ったら危ない、戻ろう」


私はまた、ご迷惑をかけてしまっているのにしょうけら様は優しくお声をかけ、手を差し伸べてくれた

でも…でも私は…


「…ぃ…ゃ、ですっ…」

「っ」

「申し訳、ありません…嫌、ですっ」

「千鶴…今夜はもう遅すぎる…、」

バッ

「っ!」


私の腕を掴もうとしたので咄嗟に身構えたらしょうけら様は一瞬驚きましたが徐々に悲しい表情をお見せに…

違うのです。私は…しょうけら様には苦しんでほしくないのに…!

この場から逃げようと振り返るけど…――


「…」

「…茨木童子…様」

「…何やってんだテメェは…」

「ど、退いてっ下さい…」

「ァア?」

「退いて、下さい!私はっ母の所に行きたいのです!」

「――……」

「だからッ――」
グイッ


パアアァァンッ

一瞬、何が起こったのか理解出来ませんでした

周りに居た妖様達も驚きが隠せずそれぞれの表情をしていた

震えた手で頬に触れてみると熱くなっていて痛みが伝わってきてようやく分りました

私は…茨木童子様に叩かれたのだと、


「…」

「分ってんのかテメェは?」

「…茨木童子」

「テメェの行いでどれだけの奴等に迷惑かけたと思ってやがんだ?俺達はテメェのお守りに振り回されるほど暇じゃねぇんだぞ」

「…っ」

「分ったんなら二度とこういう真似はすんじゃねぇ」

ぼすっ

「っ、茨木童子…」

「大体こういう事は普通テメェがやんだろうが。ちゃんと見てろ」


茨木童子様は私の腕を掴み荒々しくしょうけら様の腕の中へ投げるようにやった

叩かれて痛い筈なのに涙は出てこない

…分っていたのです。私の行動でどれ程ご迷惑をかけていたのか…分っていたのに…

それぞれ戻っていく中、私としょうけら様だけが残り


「千鶴」

「…」

「戻ったら、頬と足を匙に見てもらわなければな」

「えっ」

「こんなに腫れて…あいつには手加減というものを知らぬとは…なんという愚か者だ」

「…わ、たし…」

「それに長い距離を走ったせいで足も傷ついただろう?」

「っ……な、さい」

「…」

「ごめ、んなさいっごめんな、さい…!」

「…戻ろう、千鶴」


どんな時でもお優しいしょうけら様

私は急に自分が何をしてしまったのかと改め、後悔と申し訳ない気持ちで一杯となり涙が溢れてきた

冷静になれず自分の身勝手な気持ちを押し付けて…

謝っても謝りきれない気持ちで一杯です



「…」

「……なんだよ」

「…いや」

「…悪かったな。あいつを殴ってよ」

「私は時々お前が羨ましいと思う時がある。今もお前が羨ましい」

「は?」

「私は千鶴を大切に思うが故お前みたいに怒る事が出来ない。怒ったり手を出したりすれば嫌われるのではないかと不安になってしまう」

「…」

「先ほどもそうだった。千鶴の腕を掴んで戻させようとした時千鶴が私を拒んで…それ以上何も出来なかった。だからお前が羨ましい」

「…んだそりゃあ…」

「今回は礼を言う」

「…」

「…」

「気持ち悪ッ」

「おい」


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -