突然やってきた
「………ふぅ」
淀殿から借りた書物を一通り読み通し書物を閉じた
…そろそろ返さなければならない。私は立ち上がり書物を両手に淀殿の部屋へ向かった
それが運のつきだったのでしょうか……
「…あっ」
「むっ…貴様見ない顔だな…何奴だ」
まさか本当の淀殿に従う武士の方…?
ど、どうしよう…近くに誰も居ない…怖い。何故同じ人間なのにこんなに怖いのでしょうか
他の家臣の方達には私の事を話していないと聞いた時があった…では私はどうなるのですか?
私は言葉が出ずに只震えるのを我慢することしか出来ませんでした
(…しょうけら様…)
「何故何も喋らなぬ!貴様は何者だと聞いておるのだ!」
「ぁ、の…わ、私っは…」
な、何か話さなければ…
そう思っていても震えて声が中々でない。誰か……!
「――人の部屋の前で何を騒いでおるのじゃ」
「っ」
「淀殿!…あ、いえ…その怪しい者が」
「怪しい者?………貴様の目は節穴かっ」
「!」
「はっ…いえ、その」
「妾もこの娘の事を話すのが遅れたのが悪うなんだ…だが、この姿を見ても貴様は怪しい者と申すのか?この者は"姫"じゃぞ!」
「も、申し訳ありませんでした!」
淀殿は私の肩に手を回しながら家臣である方に怒鳴りつけていた
その表情がいつも見せる優しい表情とは程遠く、驚いてしまった
「今夜この者について話す故皆を集めよ」
「…はっ」
そう言うと家臣の方は黙って去って行った
緊張と恐怖で固まっていた肩が緩み安心したように肩を落とせば淀殿の声が聞こえた
「大事無いかえ?千鶴」
「淀殿…申し訳、ありません…私…勝手に」
「お前のせいではない。大体この時刻帯に家臣の者が来る事など少なんだ…それに、こんな事ならば妾が早く城の者に伝えるべきであった…すまぬな」
「…淀殿…」
「わ、私はどうすれば良いのでしょうか!私のせいで淀殿にご迷惑を…!」
(ワシは相談係か…)
思わず大天狗様のお部屋に入ってご相談を致しました
何故と言えば…近かったものでして…
「そうじゃのう…ワシよりしょうけらに聞かぬのか?」
「え…」
「ワシでも優しい言葉をかける事は出来る…しかし今の千鶴にはしょうけらの優しさが一番なのではないのか?」
「…大天狗様…」
「今なら部屋に居るだろう…行ってきなさい」
私は大天狗様に言われるがまましょうけら様のお部屋に足を進めた
邪魔ではないでしょうか…しょうけら様とていつまでも私と一緒ではなくご自分の時間がある
そんな時間を邪魔して良いのでしょうか…
「…あ」
思わず足を止めてしまった
しょうけら様が部屋から出てきた所でした…どこかへ行かれるのでしょうか?
なら尚更私の勝手な相談など………引き返そうとしたら、
「千鶴…?」
「っ!」
「どうした?千鶴からわざわざ…何かあったのか?」
「…!(ぶわっ」
「!?」
しょうけら様が優しく聞いてくるので思わず涙が出てしまった
「っ…ぅ…!」
「な、何故泣いてっ…わ、私は何かいけない事でも聞いてしまったのか…?」
「ち、違いっます…も、申、し訳っありません…!」
「…千鶴、私の部屋へ」
しょうけら様は私の肩に腕を回してご自分のお部屋へと案内してくださいました
私はどこまで色んな方にご迷惑をかけるのでしょうか…
「何があったんだ?」
「…私…自分が嫌になって…っ」
「何?」
「色んな方にご迷惑をかけて、…先程は淀殿の家臣の方に見つかってしまってっ淀殿にご迷惑をかけてしまって…」
「千鶴」
「もうっどうして良いか…!」
「…普通にしていれば良い」
「っ」
気づくと私はしょうけら様の腕の中に居た
先程までの不安が徐々に消えていくのが分る
「千鶴は誰にも迷惑をかけてはいない。人と妖の考えは違うのが当たり前だ。少しの行き違いも当たり前なんだ…だから千鶴が思い悩む事ではない」
「しょうけら様…本当、なのでしょうか」
「?」
「しょうけら様はいつも私のお傍に居てくれます…ですが、私が居るせいでしょうけら様はご自分の時間を持てていないのではないかと思うと、心が痛むのです」
「お前は優しいな」
「え」
「私の幸せは、千鶴…お前なんだ」
微笑んで言うしょうけら様の言葉に私は耳を疑った
本当に…?嬉過ぎて…逆にどうして良いのか…分りません
「お前が笑っていてくれさえすれば私は幸せなんだ…それに自分の時間を過ごすより、千鶴との時間の方が大切だ」
「しょうけら様…」
「だから何も気にする事はない」
「…はい」
私も…私の幸せはしょうけら様です
なんだか可笑しいですね。お互いの幸せが同じだなんて
ですが私は今とても幸せです。貴方様とこうしていられるのですから
きっとしょうけら様も同じですよね…
有難うございます
「……ふぅ」
「お疲れ様でした。羽衣狐様」
「うむ…やはり話すのがちと遅うなんだ。家臣共しつこく聞いてきた」
「しかし何故でしょうな」
「?」
「千鶴と出くわした家臣…何ゆえあの時刻帯に羽衣狐様のお部屋へ」
「大した用事ではないと言ってはいたが…」
「ですが、これで千鶴も楽になりましょう」
「そうじゃな。今度は堂々と茶会でも開こうではないか」
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