夜空の花


「しょうけらよ。今夜千鶴共に町へ出かけてみたらどうじゃ?」

「はっ…何故、急に」

「今夜、花火が打ち上がる日なのだそうじゃ。上で見るのも良いと思うたが他の家臣共も居たら厄介なのでのう…だから、お前が町へ連れて行き二人で見てきたらどうじゃ?」

「…」



「―――と、淀殿に言われたのだが…千鶴は花火を見たいか?」


しょうけら様のお話に驚きました

江戸でも花火を一度だけ見た事はありますが京ではまだ見た事がなく、

それに私が住んでいた所は町から少し離れた場所なので行くにもいけずに…だから今は、とても嬉しくて…


「…ぁ、の…その」


でもはっきりと言う事が出来ない

本当に行っても良いのか心配で…


「千鶴」

「っ」

「行きたいのなら正直に言っても良いんだ。何も遠慮する事はない」

「しょうけら様…あの…私、花火を見たいです」

「…では今夜見に行こう」


しょうけら様が微笑んで言ってくれて、とても安心しました

夜が凄く楽しみ…これで二度目です。江戸では母と父と見て…京ではしょうけら様と見る

嗚呼お母ちゃんやお父ちゃんにも見せてあげたい。うぅん冬子にも一緒に見せてあげたかった

でも、冬子は今年の花火は絶対見に行くと言っていたからもしかしたら会えるかもしれない


「…」

「…」

「来るのが遅ぇぞ」

「もうすぐで始まってしまうな。急がねば」

「ちょっと待て。何故お前たちが居る」

「なんだよ安心しろ。ちゃんと人間に化けたぞ」

「そういう問題ではないっ!」


私は以前着ていたのと似たような着物を着てしょうけら様と門の方へ行くとそこには、茨木童子様と鬼童丸様が居られた

あーお二人も一緒に行くのですね。みんなで行けば楽しいですものね

ですが何故しょうけら様と茨木童子様は睨み合っているのでしょうか?


「なぁなぁ!なんで俺行けないんだよ!」

「お前は人間に化けて羽衣狐様と共に上で見ていろ」

「上の方が見晴らしは良いんだよな?羨ましいな、狂骨」

「じゃあ茨木童子が代わるか!?」

「断る」

「そ、即答…!?」

「大体二人も見に行くなら二人で行けば良いだろう」

「何を言っている。しょうけらだけでは不安だからな、我々も付いていこうと思ったのだ」

「感謝しろよ」

「…私は信用されていないのか…すまない、千鶴」

「いえ!多い方が楽しいですし、私は良いと思いますよ」

「…」

「鈍感女」

「…行くか」

「え、えええ…」


私は何かいけない事を言ってしまったのでしょうか?

少し気まずい雰囲気の中町へ出かけました

町はとても賑やかで気を緩めればしょうけら様達と離れてしまいそうです

今日は花火が見られるのもありましょう。夜こんなに人が多いなんて滅多にございません


ぎゅっ

「大丈夫か?千鶴」

「は、はぃ…人が多いですね」

「そうだな。私の手を離さない様にしていろ」

「はい」


今となってはこうしてしょうけら様に手を握られるのがとても幸せ

しょうけら様の優しい温もりが伝わってくる


「ここだな」

「人が多いな」

「少し出遅れたか?」

「…」


川の傍の橋には沢山の人が居た

みんな花火目的でしょう。辺りを見渡すと嬉しそうに走り回る子供がいる

なんだかこういう雰囲気がとても懐かしい…私が大阪城へ行って二月が経つのだから


「楽しそうだな」

「はい。こういう風景がとても懐かしくて…つい嬉しくて」

「そう言えば千鶴は町人だったな」

「忘れてた」

「…」


なんだか最近お二人の私に対する扱いが気になります

でも、こうして以前とお変わりなく会話が出来る事はとても嬉しいです

それから一刻が過ぎると大きな花火が打ちあがると多くの人々が歓声を上げた

それがあまりにも大きく綺麗で、思わず嬉しくて開きそうな口を両袖で隠し見惚れていました


「人間は本当に面白いな」

「…え?」

「時代が変われば人間も変わってゆく…戦が少なくなっているこのご時世、このように人間を喜ばす物も作ってゆくのだな」

「妖の皆様から見て花火はどう映るのですか?」

「私も綺麗だと思う。多少耳にくるがな…」

「…少し静かな場所に行ってくる」

「茨木童子っ」

「あ?なんだよ、鬼童丸。止めんじゃね」

「…拙者も付き合う…」

「…」


妖の方には慣れないのでしょうか?

…場所も近いのもありますのでしょうか…私はもっと近くで見て見たいと思うのに

ふとしょうけら様を見ると、少し無理をなさってるように見える


「あ、あのしょうけら様。少し離れた場所へ行きましょう?」

「っ私なら大丈夫だ。千鶴は近くで見たいだろう」

「いえ…花火は遠くからでも見れますし…今はしょうけら様が心配です。私のために無理をなさって」

「千鶴…」


私はしょうけら様の手を握り歩き始めた

すぐにしょうけら様が私の手を引いてくださる形となり人混みの中を歩いていた

背後にはドーンッと花火が上がる音が続く。それに伴い花火を光が私達を照らす

でも人混みが多すぎて気づくと私はしょうけら様と離れ離れになっていた。繋いでいた手もきっと人とぶつかった時に離れてしまったのでしょう


「…し、しょうけら様…」


どんなに歩き探しても人混みの中でしょうけら様のお姿を見つけることは出来なかった

茨木童子様も鬼童丸様も居ない…私一人……これほど不安になってしまうなんて


「…っ」


泣いては駄目、諦めずに探さなくちゃ…きっとしょうけら様も私を探して下さっている

赤くなった目を擦り、再び歩き始めようとしたら背後から懐かしい声が聞こえた


「…千鶴…?」

「っ…冬、子…―――?」


振り向くとそこには懐かしい友人が居た

冬子は私だと分れば嬉しそうに走って私を抱きしめた


「千鶴!ほんまに千鶴なん!?」

「冬子!…うん、私だよ」

「これ夢なんか?もう一生会えんと思うてた千鶴に会えるなんて…!」

「冬子に会えて私嬉しい…会いたかった、冬子」

「ウチもや!」


不安が少しだけ晴れた

冬子は変わらなくて安心した



「だからテメェだけじゃあ危ねぇって言ってたんだよ!話した矢先に見失いやがって!」

「仕方ないだろう!あの人混みでは!」

「じゃあ腕に紐か何か縛っときゃあ良かったじゃねぇか!」
「そんな酷い事出来るわけないだろう!」

「茨木童子!しょうけら!喧嘩している暇はないだろう!すぐに千鶴を見つけなければ!」

「「当たり前だっ!!」」

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江戸時代に花火あるって聞いたけど京にはあったかな?
あったよね。あった事にしておいてください…!

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