天狗は初めてです


「…」

「ワシの事は気にするでない。書物の続きでも読んでいて構わないぞ」


あの日を境に私は妖と共に暮らす事に…いえ、最初からそうでしたが

何と言うか…皆、私の前では堂々と妖のお姿になるので未だ慣れずに震えてしまいます

今日も静かに淀殿…羽衣狐様…どちらでお呼びして良いのか…とりあえず淀殿に貸して頂いた書物を読んでいると、見知らぬ方が入ってきた


「…あの」

「なんじゃ?」

「しょうけら、様はどちらに…?」

「なんと!年寄りより若い男児の方が良かったか!…あ、いやお前としょうけらはそのような関係なのだから当たり前か」

「い、いいいえいえ!そ、そう言う意味では!」


普段しょうけら様がお部屋に来て下さるから聞いただけなのに

偉い勘違いをされてしまった…あ、いえしょうけら様とは本当にそのようなご関係になったのですが…

ああああ…自分で言ってお恥ずかしい限りです


「しょうけらは今他の者と仕事へ出かけておるのでな。今日の護衛は残っておるワシが任されたのじゃ」

「お仕事…?」

「…妖の仕事…聞きたいか…?」

「…」

「…」

「…ぇ、遠慮しておきます…」

「から甲斐のある女子じゃな」

「大天狗や、それぐらいにしてやらねば千鶴が可哀相じゃぞ?」

「ぁよ、淀殿……羽衣狐、様?」

「ほほほ。人の名のままで良い」

「…淀殿」


安心して人の名で呼んでみれば淀殿は微笑んでくださいました

そう言えば確かこの…大天狗様という方もこの間の席に居たような…


「そうじゃ、紹介が遅れてしまったのう…千鶴。こ奴は鞍馬山の大天狗じゃ」

「鞍馬山…の、大天狗様?」

「しょうけらと居るのも良いが、たまにはこの老いぼれの話相手になって下されよ」

「わ、私なんかで良ければ是非」

「ほうこれは良い話し相手が出来たわい」

「なんじゃ大天狗。妾では不服と申すのかえ?」

「いえいえ…たまには若い子とも話してみたいので」


なんだか…良きおじい様みたいな方

笑顔が素敵と言うか…なんと言えば良いか…ですが悪い方ではないのは確か


「ところで」

「?」

「お主はしょうけらのどこに惹かれたのじゃ?」

「!?」

「おぉそれは妾も聞きたい。千鶴や。話してみぃ」

「あ、あああの…その…!」


急に言われても困ります…しょうけら様の…どこに、ですか

そ、それはっしょうけら様はお優しくて凛々しくて……………


「は、恥ずかしくて言えません…!」

「初々しいのう。千鶴は異性と関係を持った事がないのかえ?」

「は、はぃ…恐れながら18になるまで一度も異性の方とお話すらろくにした事がなく」

「じゃが千鶴はほんに美し(メグシ)…お前を狙う男も少なんだろうて」

「い、いえ!そんな!滅相もございません…」

「しかしまだ18とな…若いな。お主は」

「しょうけらも罪な男よ」


互いに笑い合う大天狗様と淀殿

そうですよね、妖様方は皆きっと百年以上生きておられる…私なんて足元にも及ばない

きっとしょうけら様も百年以上生きておられるのですよね


「妖様は皆沢山生きておられますが、淀殿も沢山生きて居られるのですか?」

「そうじゃな…正確に言えば"淀殿"ではなく"羽衣狐"が長く生きておる」

「?」

「妾は転生妖怪…人から人へと移り変わって生きる妖じゃからな、人の歳しか生きられぬ…部下の者達とは違うのじゃ」

「もし、"淀殿"が亡くなられたら…?」

「その時は"淀殿"の身体から抜け、また転生が出来る素質がある者が現れるまで眠りにつくまでよ」

「…」

「しかし妾はひとつだけ恐いものがある」

「?」

「…それはお前じゃ。千鶴」


…私が…恐い…?

どういう意味か私には全く分らず首を傾げると、淀殿は悲しい微笑みを見せて


「人は蝉のように儚い…お前も長くても50年ぐらいしか生きられぬであろう。妾は…いや全員千鶴との別れがくる日を恐れておるに違いない」

「…」

「羽衣狐様。一番はしょうけらですぞ」

「ほほほ。そうじゃな…一番悲しいのはあ奴じゃな」


そう、でした…私は少なからず50年ぐらい生きる…私達人間にとって50年なんて長いと思っていました

ですが…淀殿方にとってはとても短い…この方達はこれからも時代を超え生きてゆくのだろうから


「なんだか…不思議でございます」

「「?」」

「私にとってはまだまだ先の事のように思えるのに…淀殿の話を聞いていると、もうすぐの事かと思ってしまいます」

「千鶴…」

「50年なんてあっという間なのでしょうね…なんだか変な感じもします」

「どうしてだ?」

「きっと50年先なんて私は老いた老婆です。ですが皆様は変わらずお綺麗なまま…複雑でございます」

「ほほほ…案ずるでない千鶴。妾もその頃は既に老婆じゃ」

「あっ」

「ははは!そうじゃな。ワシ等の仲間入りじゃぞ!」

「その時はまたこの三人で昔話でもしようではないか」

「…はい」


確かに…人の歳しか生きられぬ淀殿もきっと老婆

なんだか安心しました

このような穏やかな日々を送れて…とても楽しゅうございます



「我が名は凱郎太!ほう!ちっこい女子じゃなぁ!」

「ひ、ひええええ…!」

「凱郎太!お前だけは人間に化けよ!千鶴が怯えるではないか!」

「なぬっ!?」

「はぁ…やれやれ」

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まさかのしょうけら出番なし…!?
次は出す。

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