見せたくはなかった



「申し訳ありませんしょうけら様。私のために」

「いや…私の方こそ急に消えてしまってすまない…怒って、ないのか?」

「どうして怒るのですか?私は急に無礼な事を申してしまってしょうけら様に嫌われてしまったのかと不安でした」

「嫌うだなんて!私はお前の事を嫌ったりはしない」

「しょうけら様」

「今夜は私が着いている。だから安心して寝てほしい」

「はい」


良かった…千鶴が怒っていなくて

出来れば今夜あたり千鶴を苦しめる妖が出れば良いが…

しかし私は千鶴の前で妖力が使えるだろうか?否、刀だけで倒せる妖怪であってほしい

千鶴にだけは私の"あの姿"を見せたくない…間違いなく嫌われてしまう


「…」


私の横で眠っている千鶴の寝顔は本当に可愛らしい

やはり私は千鶴に惚れているのだな…

ゆっくりと立ち上がり静かに襖を開け空を見上げると満月が出ていた。月明かりで回りもかすかに明るい


「…」















「ヒェッヒェッ…会イニ来タヨォ」

「…ん…」

「サテサテ…今回ノ記憶ハドンナ物カ……」

ジャキッ

「!?」

「貴様が全ての元凶か」


姿を消して様子を見ていれば早速来たか…こいつが千鶴の記憶を…!

しかしこいつとくれば、刀を向けられているというのにどこか平然とした表情をしているのが気にかかる


「コレハ…羽衣狐ノ部下ノ者ダッタノカ」

「貴様…私を知っているのか…?」

「勿論ノ事。コノ娘ノ記憶ニ貴方ノオ姿ガ見マシタノデ…ネ?」

「やはり貴様が千鶴の記憶を…!今すぐ返せ!」

「ソレハ出来マセン。コンナ上等ナ記憶…ソンナニ喰エマセン」

「何…?」

「妖ガ人間ニ惹カレルナドト異例ナ事…ソンナ記憶喰ッタ事アリマセンデシタカラネ。トテモ美味シュウゴザイマシタ」

「貴様ぁ!!」


奴の言葉に血が滾るのが分った。全身に熱い血が流れてゆく…今の私は紛れもなく[畏れ]を全身から放つ妖

勢い良く刀を振りこいつの首撥ねようとしたら妖は不気味に笑い「オット良イノデスカ?」と言いだしたので思わず手を止めると


「わしヲ殺セバ、娘ノ記憶ハ一生取リ戻セマセンゾ…?」

「っ!!」

「ヒェッヒェッ…焦ッテルノデスカ?ソンナニ血ノ気多クシテオラレレバ他ノ妖ヲ呼ビマスゾ」

「くそっ…!」

「ソレデ良イノデス。サテサテ今回ノ記憶ハドンナ味カナ…?」


私は只見ている事しか出来ないのか…?

目の前で千鶴がまたしても記憶が喰われているというのに私何も出来ないのか!

私は千鶴と約束したではないか…必ず守ると…!神に誓ったのではなかったのか!

あの鏡さえ奪えば…奴を殺してあの鏡を奪えばきっと千鶴の記憶を取り出せる…


「…コノ娘ハ会ウ度ニ面白イ記憶バカリ……ソレデハ…ヒェッヒェッヒェ」


姿など気にして千鶴を守りきれる…そんな甘い考えが駄目だった

今だからこそこの力を使う時ではないのか…?

待っていろ…千鶴。今お前の記憶を取り戻してやるからな…


「"…ひかり あれ"」

カッ!!

「ッ?……ッ――!!キ、貴…様ァァ…!」

「…っ…?」

「罪人よ…貴様の罪を思い知れ…」



羽衣狐side―

「―――っ!」

「羽衣狐様…!」

「この畏れ……鬼童丸!茨木童子!今すぐ千鶴の部屋へ向かうのじゃ!妾も向かう!」

「はっ!」

「御意」


しょうけらの奴…畏れを放ったか

今まで千鶴の前ではあの姿にならぬようにしていた筈…まさか記憶を喰らう妖怪が出たと言うのか…?

しかし雑魚ならば刀だけでも倒せる筈じゃ…!いや、待て…妖怪がしょうけらの心を知っていたとすれば…


「っ…妾は何故それを思わんだ…!」


千鶴に関わる何かをされればしょうけらは何も出来ん…!


ドサッ!

「…っ!!」


千鶴の部屋から見知らぬ妖怪が出てきよった。しかしその妖怪は既に息堪えており瞬く間に消えていった

奴が…記憶を喰らう妖怪か…?


「しょうけら!」

「っ」

「…鬼童丸…」

「……だ…れ…?」

「茨木童子!」


妾が叫べば茨木童子はすぐさま、起き上がっている千鶴の傍へ行き後ろに回り片手で両目を塞ぎおった

しょうけらはやはりあの姿になっており妾が居る事に気が付けば口を開き


「淀殿……」

「その鏡はなんじゃ?」

「千鶴記憶が入っている鏡です…どうか、私の代わりに千鶴の記憶を…」

「…分った」


鏡を持てばしょうけらは立ち上がり部屋から出て行ってしまった

少なからず千鶴には少し見られたかもしれん…一番見せたくなかったじゃろうて

…さて…この鏡からどう出せば良いのじゃ…?


「…誰…なんです、か…?」

「っ…良いから黙ってろ」

「…」

「羽衣狐様」

「うむ…小突いても何も反応せん…」

「おい。千鶴また記憶を取られてるぞ」

「だからか…しょうけらが畏れを放ったのは」

「…いっその事叩き割るかの」

「それだけはお止め下さい!」


細かく鏡を見ていると急に鏡がカタカタと震え出し畳の上に置くと

ドンッ!!

無数の玉が一斉に出てきおったではないか…これが…記憶の玉だというのか?


「奴め…千鶴以外の記憶も喰っておったのか」


無数の玉は大阪城を後にして町の方へ飛んでいった

その中に二つ程の玉が千鶴の身体の中に静かに入っていった


フッ

「ぉ…っと……」

「千鶴は?」

「眠ったみてぇだ」

「これで一安心…と言いたいところじゃが」

「千鶴は…少しはしょうけらの姿を見ているやもしれません」

「都合良く忘れてる…という事はには出来ぬか?」

「どれ程都合良過ぎんだよ」

「いっその事悪夢にしてしまえば…」

「「「……」」」

「「それだ/じゃ」」


明日千鶴が聞いてくれば悪夢と言いはればきっと納得してくれるじゃろう

しかし問題なのはしょうけらじゃ

例え千鶴が気にしてなくともしょうけらの心には大きい傷が出来たであろうな

…まずは明日になってみなければ分らぬ事…

悪い方向に行ってなければ良いが…な

.

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -