おもいでの場所で




今日も同じ場所へ行くと、狒々様が居た

出来ればずっとこうして居てほしい…もし出来るのならまた家族で過ごしたい



「今日は、行きたい所があるのだが…時間はあるか?」

「勿論です。狒々様と一緒に居られるなら無理にでも時間を作ります」

「時風は本当に嬉しい事を言ってくれるなァ」



先に狒々様がお立ちになられて「では行くか」と私に手を差し伸べてくれた

私は幸せを見に感じながら狒々様の手を取って立ち上がった。一生この優しい温もりは忘れないだろうと心の淵で思っていました






「っ…ここ、は」

「覚えておるか?まぁ忘れたとは言わせぬがな」

「つい先日のように覚えております…私と狒々様が初めてお会いした場所、ですよね」

「あぁ。夜の内にここへ来たら何一つ変わっていなくてな…時風と来たくなった」

「確かに400年も何一つ変わりなく綺麗な場所ですね」



ここで初めて狒々様とお会いした事が鮮明に覚えている

忘れる筈がない…ずっと、消えることの無い記憶が蘇ってくる
「あれからもう400年…時が経つのはあっという間だった」

「そうですね。この場所から始まって狒々様の嫁となって猩影が生まれて…ついこの間だと思っていました」

「時風はワシと初めて会って初めて会話した内容覚えておるか?」

「え?…えと…」

「忘れてしまったのか?ワシは鮮明に覚えているというのに」

「ご、ごめんなさい…何でしたっけ?」

「…"どうして能面をつけているのですか"…」


狒々様の言葉で思い出した

そうだ…確かに私は初めて狒々様を見た時そう思った。


「あ…そうでした。思い出しました!」

「どう答えて良いか分らなくて戸惑ったんじゃぞ」

「だって本当に気になったんですもの。狒々様最後までつけてる理由教えてくれませんでしたね…もう教えてくれませんか?」

「内緒じゃ内緒」

「…意地悪」

「意地悪で結構じゃ」

「ケチ」

「おーワシはケチじゃ」

「もう……ふふ」

「キャハハ」


狒々様とのこういうやり取りはどうしてこうも面白いのでしょうか

自然に笑ってしまう。私は教えてもらえなくて怒っていると思ってたのに…もう


「お花見…今年は組総勢で楽しみましたね」

「懐かしいのう。そうそう、騒いでたら猩影が呆れてたなァ」

「ふふ、猩影は狒々様と違って大人ですから」

「待て待て。ワシは父親じゃぞ。なんで猩影の方が大人なんじゃ」

「だって狒々様何も考えずに行動するじゃないですか。お花見の時も急でしたし」

「ワシの頭の中はいつでも時風でいっぱいなんじゃ」

「はいはい」

「軽く受け流されたぞ」


本当に狒々様は調子が良くて…だから猩影も時々呆れ返っちゃうのね

でも、そんな彼が愛おしい


「桜、散ってしまいましたね」

「そうじゃな」

「来年は…狒々様が居ないお花見になってしまうんですね」

「…そうじゃな…だがなァ時風」

「?」

「毎年の春にはここに来てくれぬか?それでワシの事を思い出してほしい」

「…何を言っているんですか、狒々様」

「酷いのう。こっちは真面目だというのに」

「私はっ…1日たりとも狒々様を忘れません。この命が尽きるまで」

「時風」


愛した人を忘れる訳がない。いやずっと忘れられないでしょう

私と狒々様との思い出は…心の奥に閉まっているのですから


「ワシはずっとお前の傍に居る」

「はい」

「お前が笑ってる時も悲しんでいる時もずっと傍に居る」

「…はい」

「だから、一人だと思いこむなよ」

「はいっ…」


この人には全てお見通しでした

狒々様が亡くなってからは猩影が居るというのに、心のどこかでは一人だと思っていたのだから

でも…当たり前のように傍に居てくれた人が突然居なくなってしまったら…そう考えてしまうのです


「狒々様」

「ん?」

「約束してくださいね…もう、消えないと」

「急に難しい事を言うなァ」

「もう狒々様と離れたくありません」

「…分った。出来る限り約束しよう」

「私の我が儘、聞いて下さって有難うございます」

「いーや。元はと言えばワシのせいじゃからな」


良かった。これで一緒に居られる

今度は、猩影も連れて来よう。そして家族水入らずで楽しく過ごそう

中々家族で居られる日が少なかったから




「あ!狒々様!そこ段差が…」

「おぅ!?」

「ふふ。狒々様ったら」

「あいたた。誰じゃこんな所に段差作った奴。責任者呼べ!」