変わらないふたり 狒々様が私の前に姿を見せてくれた。神様が私の願いを叶えてくれたなんて今でも夢のよう 朝起きるとまた、一人になってしまったという不安が襲い…急いで狒々様のお墓の前に行くと…お墓の前には狒々様が座っていた 「………ぃっ」 頬を抓ってみると痛みがピリッと走った。これでまた夢ではない事が分る 嬉しくて嬉しくて小走りで近付く 「狒々様!」 「…おー時風。良く眠れたのか?」 「え?」 「ワシが死んでからは良く眠れてなかったんじゃろ?」 「どうして…それを」 「猩影がなァ毎日墓の前で"お袋が良く眠れてねぇんだ。親父のせいだぞ"って…耳にたこが出来たわ」 ケラケラと笑いながら言う狒々様。私もつい笑みが零れてしまう…だって、また貴方の笑顔が見れるんですもの 全く猩影ったら…いつもそんな事を言っていたのね 「…」 「狒々様…?」 「…ワシ、本当に死んじまったんだなァ…」 「…っ」 能面をつけていない狒々様の表情はすぐ分る。とても辛そうなお顔をしている… 私は静かに狒々様の肩に寄り添った。辛かったのは狒々様も同じだった…私だけではなかった…そう思うと、また視界が歪む 数分間ずっと寄り添っていたら、急に狒々様が口を開いた 「時風」 「はい。狒々様」 「お前を幸せにすると約束したのに、断言したワシが先に約束破っちまってすまねぇな」 「…」 「情けねぇや。まだ現役だと思ったが…ワシももう歳じゃった」 「っ…そんな、事…言わないで、ください」 今の狒々様のお声を聞けば聞くほど胸が苦しくなる 狒々様を抱きしめても胸の苦しみは消えず、只涙を流すだけ…嗚呼、私は無力。何もしてあげられない…でも、これだけは言える 「また…面白い事をして、私を笑わせて下さい…狒々様には、弱音は似合いません」 「時風…」 「貴方はまた、こうして私の前に姿を見せてくれた…それだけで私は十分幸せでございます」 「…お前は何も変わってねぇなァ」 「え?」 「いつもお前はワシか猩影が居れば幸せだの言って…他の幸せはないのか?」 「本当に私は狒々様と猩影が居てくれさえすれば幸せでございます。孤独だった私を狒々様が明るくしてくれたんですよ」 一人孤独だった私を狒々様は毎日会いに来てくれて笑わせてくれた。 貴方は私の光なのです…だから、私はこうして寄り添っているだけでも十分過ぎるくらい幸せなんですよ 「狒々様だって変わっていませんよ」 「?」 「この大きくて優しい温もりは昔も今も変わってなくて…触れる度に…嗚呼、狒々様だ。と改めて好きなのだと思います」 「キャハハ」 笑われてしまった。そんなあっさりと笑われてしまうと逆に恥ずかしくなってしまうじゃありませんか こっちは真面目だというのに… 「時風」 「っ」 一度恥ずかしくて狒々様から離れたら今度は狒々様が私を抱きしめてくれた 本当に…狒々様はいつも急すぎるお方ですね 「ワシも時風を嫁に出来て幸せじゃ」 「狒々様」 「お前の笑顔がワシを安心させてくれたんだぜェ」 「猩影も同じ事を言ってました」 「それ程、お前の笑顔は特別という事だ」 今なら心の底から笑顔で居られる もう一度狒々様に会えて、声を聞けて、触れられて……これ以上に幸せな事なんてないくらい… 「時風。愛してるぜェ」 「私もです。狒々様」 昔も今も…変わらない想い 今だけ、時間よ止まってほしいと思います |