畏れていたきざし



サァアァアアッ


「…」


死んだ時、凄く後悔をした

時風と猩影を残して先に行くなど…考えてもいなかった事

だが不思議な事に気づくとワシは立っていた。草の上に…そして時風がワシの墓の前に座っていた

まさか、またこうして時風や猩影と話せるなんて嬉しい事この上なかった


「だが…やはりワシの墓があるのを見ると…ワシは既に死んでおるのだな」


それだけは夢でも幻覚でもない…紛れもなく現実

だが…こうして時風と居られるだけで満足じゃな


「……?」


一瞬目を疑った

ワシの身体が……透けてる…?


「…オイオイ…早いじゃろうが」


時風達とまだ過ごしたいというのに

もうおしまいか?ちーとばかし早いじゃろ…まだ話したいことが山ほどあるというのに

どうする?時風にはなんて言えば良い?

約束したというのに…もう消えぬと……


「…またワシは…約束を破らなければならぬのか…」


またしても時風を悲しませてしまう

それはもう嫌じゃ。もうあいつの悲しむ顔は見たくない…時風には笑っていてほしい


「お願いじゃ…ワシにもう少し時間をくれぬか?少しだけで良いんじゃ…何も沢山なんて言うとらんじゃろ。のう…?」


徐々に透けてる部分が増えていく

神様とやらが居るならばまことに意地悪な奴じゃ

もう少し時間をくれたって良いじゃろ…





ジャリッ

「っ」


振り向くと…時風が立っておった

今日も来てくれたんじゃな。ワシは微笑むが時風は微笑んでくれなかった

嗚呼…またワシはお前を悲しませてしまう


「狒々様っ…!」


かすかに感じる時風の温もり

もうこの温もりを感じる事が出来ないと思うと胸が苦しい

時風の鼻を啜る音が聞こえてくる…泣くな、泣くな時風


「嫌、ですっ…狒々さまぁ…消えないでっ下さい…!」

「時風」

「私っ…いっぱいいっぱいお願い、します…だからぁ…消えないで…!!」

「時風…!」


既に手は消えかけていて時風を抱きしめようとしても透けているせいで抱きしめられない

頼む…頼むから


もう少し…あと少しだけで良い…ワシに時間をくれ

時風を思いっきり抱きしめる時間を…







ギュッ

「あ」

「っ」


時風を抱きしめられた

そうじゃ…これで良い。この少しの時間だけでワシは良い

残り少ない時間でワシは全ての想いを時風に言おう

時風が泣かぬように…笑っていられるように…

出逢った頃から今日に至るまでの…ワシの想いを―――