もう一度約束しよう




「ひっく…っ狒々、さま…!」

「時風」


狒々様が消えるなんて嫌…約束したのに…もう消えないって

なのに!…神様はどこまで意地悪なんですか…!


「狒々様…!消えない、で…」

「……ワシの話を聞いてくれぬか?時風」

「え…?」

「ワシは本当に心から時風に出逢えて良かったと思っておる…これはいつまでもずっと変わらぬ想いじゃ」

「…私、も…狒々様と出逢えて本当に嬉しかったです」

「時風と夫婦になれて時風との子供猩影が…ワシの宝が生まれてこれ以上嬉しい事なんて無いほど幸せだった」

「…はい」

「でも猩影が妖怪としてではなく人間の中に混じって生きると言いだした時は大喧嘩したのう」

「組総勢で止めに入っても…止めませんでしたね」

「おう。終いには大将にとめられて…あの時は大変だったな」


でも最後には狒々様、猩影を認めて背中を押しましたね…

父親らしくないと言っていても私は十分父親らしいと思っています


「時風」

「…はい」
「ワシはずっと時風の傍に居る」

「っ」

「姿が見えなくともワシは時風の傍にずっと居る…だから」

「狒々、様」

「だから…泣くな……時風は笑っていたほうが似合うからのう」

「ぅっ…、はぃ…はい…!」


精一杯笑顔を狒々様に見せた

涙で視界が歪んでもずっと笑顔を見せ続けた


「やっぱり時風の笑顔は世界一じゃ」

「ひ…狒々、様」

「ん?」

「私に沢山っ…沢山の素敵な贈り物、有難うございっました」

「っ……何を言うとるんじゃ」


徐々に消え逝く狒々様

もう抱きしめられないというのに私を自分の胸の中に収め


「ワシの方こそ…沢山の宝物が出来た。有難うな時風」

「…狒々様…!」

時風…また約束をせぬか?

「えっ…?」

生まれ変わったら…また、出逢おう

「はぃ!…はいっ…!」

………またな。時風――――


手を伸ばした時既に手遅れだった

狒々様は消えて逝ってしまわれた…その後また泣き崩れたけど狒々様のお言葉を胸に頑張ろうと思った

姿は見えずとも、狒々様はいつまでも私達の傍に居てくれる

そう…そして

生まれ変わったらまた出逢うのだから…寂しいとはもう思わない事にしよう

前に進まなければいけないのだから――


























パンッパンッ

「親父…また新しい年が明けたな」

「猩影ったら…お墓の前では手をたたくものだったかしら?」

「良いんだよ。親父の前だし」

「あら」


あれから時は流れてもう雪が降る翌年1月となった

猩影と決めて月に一度はお墓参りしようと決めた。狒々様は寂しがりやですものね

…狒々様?見ていらっしゃいますか?


「私も…猩影も元気ですよ」

「大猿会は元気だけが取り得だもんな、お袋」

「もうっ猩影」

「親父も風邪引かなかったしな…あ、でもその分向こうで風邪引いてるかもな」

「ふふ…きっとそうね。くしゃみしてたりしてっ――」

ザァアアアッ

ワシはいつでも元気じゃぞ

「っ」


一瞬、風と共に狒々様のお声が聞こえた気がした

ほんの一瞬…だけれど


「お袋?」

「狒々様が居たみたいよ」

「…ははっ」

「ふふ」


狒々様、

今日も一段と寒い一日になりそうです―――


END.