「名前…ねぇ、名前ったら!」

「っえ?」

「どうしたの?ボーッとしちゃってさ」

「う、うぅん。なんでもない」


あれ…?私…どうしたんだろ?

ついさっきまで私は山吹乙女で、鯉伴の妻だった。確か清十字怪奇探偵団の子達の先祖の子が妖怪にやられそうなところを助けて…鯉伴達と屋敷に帰る途中、倒れて…


「おーい。名前ー?」

「ねぇ有紀、私夢見てたのかな?」

「はい?…何の夢?」

「私が山吹乙女で鯉伴の妻になった夢」

「…」

「有紀?」

「何それ!?超羨ましいんですけど!!」


ガッと両肩を掴まれブンブンと揺らされた。凄く目が回る…!

嗚呼…でもこれが私、「苗字名前」の日常なんだ

なんだか夢には悪いけど…こっちの方が……


「有紀」

「ん?」

「有紀のお父さんって煙草吸う?」

「へ?吸わないよ。お酒飲むけど」

「じゃあ、なんで煙草の、におい…なん、て…」

「ちょっと、名前?…だいじょ、う…ぶ…」どんどん有紀の声が遠のいていく

どうして?これが現実なんじゃないの?私の現実はどこ?夢はどっち…?
























「…ん」


目を覚ますと、見覚えのある天井

嗚呼…ここは奴良組の、屋敷…私の部屋…?


「起きたかい?」

「ぇ……っ!」


ガバッ

傍には鯉伴が居て、先程まで雪麗さんが居て…やっぱり"あれ"が夢だったんだ

私…なんだろ…怖いよ……何故か自然と鯉伴に寄り添う形になっていて、


「どうした?怖い夢でも見てたのかい?」

「鯉伴様…もし、私が私ではなかったら…どうします?」

「何言ってんだよ。山吹は山吹だろ?」


そっか…そうだよね。鯉伴にとっては私は私であって山吹は山吹

やっぱり鯉伴の傍に居るととても落ち着く…


「山吹」

「はい」

「まだ寺子屋に行ってんのかい?」

「…はい」

「屋敷に居るのはつまらねぇかい」

「はい……あ、いえ。なんだかじっとしていられなくて…動いていた方が良いですし…それに、子供好きなので」

「そうか」


スゥッ

鯉伴は立ち上がり障子に手をかけ、


「俺も好きだ」

「…」

「この町が…人間が」

「、鯉伴様っ」

「?」


言えなかった…声が出なかった。

この後起こる事を知っている私。でも鯉伴に言えない…怖くて…


「安心しろ、山吹」

「え」

「俺は大丈夫だ。山吹は俺の帰り待っててくれや」

「……はい」


鯉伴の笑みを見たら何故か私も笑顔になれた

信じよう、鯉伴を

きっと鯉伴なら帰ってくる。漫画でもそうだったけど、でもそれだけじゃない…鯉伴の妻をしていると心からそう思える

有紀…ごめんね。私これからも鯉伴の妻だよ

これからも私は彼を愛す。例え出て行く日が訪れようともずっと永遠に…





「あ、雪麗さん」

「乙女ちゃん!まだ休んでなきゃ駄目よ!ほら、戻って!」

「え、え…あ、はい」

「鯉伴なら大丈夫よ」

「そうですね」






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