「…山吹、その花どうしたんだい?」

「鯉伴様…寺子屋の子達に頂いたんです」


寺子屋の子達に頂いた花…山吹の花

確か山吹乙女って名前、鯉伴がつけてくれたんだよね?

…だからかな。貰った時凄く嬉しかった


「山吹の花、か…懐かしいな」

「はい…鯉伴様と初めてお会いしたあの日も、傍にこの花が沢山咲いていました」

「あぁ…そんで俺がお前にこの花を用いて名をつけたんだったな」

「…はい」


何故覚えていたのか…それは勿論山吹乙女の身体だから

…鯉伴のあの言葉もちゃんと…


「今日はどこかへでかけられないんですね」

「ん?出かけてほしいのかい?」

「い、いえ!そんな事…」

「今日は山吹の傍に居てぇんだ…駄目かい?」

「鯉伴様…駄目だなんて…むしろお傍に居てほしいです」


ポンポンと頭から言葉が出てくる。元14歳の私にとってなんと恥ずかしい言葉か…

こうやって鯉伴と縁側でくっ付いて座ってるのも凄く緊張する

私…顔、赤くないかな?


「組の奴等と仲良くやってて安心した」

「全部鯉伴様のおかげです」

「俺?いいや…そいつぁ全部お前の成果だよ」

「私の…?」

「あぁ。だからもっと胸張れば良いんだ」

「…鯉伴様」


嬉しかった

前の人生では私はどんなに頑張っても誰にも認められなくて…

でも、鯉伴様。それに奴良組のみんなに認められて…


「おー鯉伴。こんな所に居ったのか」

「…なんだよ親父。今山吹と二人で居たのに…少しは空気読んでくれよ」

「ははっそいつぁ悪かったのう。そうじゃ、青田坊が呼んでおったぞ」

「…」

「早く行ってやれ。そうじゃなければまーた首無に怒鳴られるぞ、二代目」

「…わぁーったよ。行きゃあ良いんだろ?山吹、ちょいと行ってくる」

「はい」


鯉伴は面倒くさそうに立ち上がりダルそうに歩いて行った

本当に自由な人


「どうだ?もうここの暮らしには慣れたか?」

「ぁ、はい。皆さんにとても親切にしていただけて、もう慣れました」

「ほうそれなら安心じゃな…あんな自由な夫で苦労しとらんのか?」

「全然。それがぬらりひょんという妖なんですよね。なら平気です」

「はっはっは!こいつぁ驚いた。良く分っとるのう」

「ふふ、はい。出会った頃もぬらりくらりと現れて、本当に自由な方でした。ですが、優しくて温かい方で…私は会って話をしていく内に好きになっていったんです」

「優しくて、温かい…か。桜姫も似たような事を言っとったのう」

「え」


桜姫…確かぬらりひょんの妻となった京で一の絶世の美女と呼ばれた人

そっか…鯉伴が二代目となった頃には既に亡くなっていたんだ

桜の木を見つめるぬらりひょんはどこかうわの空だった


「ん…昔の話じゃ」

「…」

「よいしょ…ワシも行こうかのう。これから狒々と釣りの約束しとるんじゃ。行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ」


少し髭が生えたぬらりひょんでもまだ若い姿を保つ彼はまるで少年のような笑顔を見せて


「これからも末永く馬鹿息子をよろしくのう」

「、」

「アンタは妖じゃ。だから一生とは言えぬが人よりは長く一緒に居られるじゃろ」

「…はい」


微笑んで返事をすればぬらりひょんはまた笑顔を見せ行ってしまった

いつの間にか釣竿を片手に。どこにしまってたのだろうか…?

でもこれからも末永く、か…

百物語との争いが終わってから私は永くこの奴良組に居られるのだろうか…子も産めない私が…


「…な、何弱気になってるの。私」


駄目。諦めちゃ駄目。変えてみせるって決めたじゃない

あんな悲しい結末は嫌…でも…私がずっと居ればリクオは産まれない

…嗚呼…どうしよ…誰にも相談できないなんて辛すぎる…



















「総大将。山吹乙女の様子はどうじゃ?」

「んー?鯉伴と上手くやっとる」

「そうかそうか。鯉の坊も良い嫁さん見つけて良かったな」

「そうじゃのう…しかし少し頑張りすぎだとは思わぬか?」

「確かに…働きすぎる所もあるのう」

「雪女に言っておくか。"あまり扱き使うなよ"っとな」

「きゃははっ」


「はっくしゅ」

「雪麗さん、大丈夫ですか?」

「えぇ…風邪かしら?」

「もしかしたら誰か噂してたのかもしれませんよ」

「もう、毛倡妓ったら」


山吹の花



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