夢の中で… [ 14/19 ]
「――ずっと一緒よ」
「――あぁ、約束だ…」
遠いどこかで、二人の男女が愛を誓い合っていた
昔だからこそ言える言葉であって、今では恥ずかしくてあまり言われない
なんだかとても楽しそうで幸せな二人だった…良く見ると男の黒髪の方は見覚えがある顔で…
フッと場面が変わり…それは悲劇なものだった
「――どういう事だっ…!何故!」
「――…ごめんなさい」
「――何故俺を裏切った!!」
「――貴方では駄目なの…ごめんなさい、許して…?」
「――!!」
女の傍に居た知らない男に、斬られて男は死に、井戸へ落とされた
なんて惨いのだろうか…人間は何故簡単に裏切られるのか…
しかし…男は自力で井戸から出て来た。だけど男の姿は変貌していた。髪は黒から白へ変わり目つきも穏やかだったのが鋭くなっていた…
ふと気づいた……あの男は、狂宴寺琥珀―――そう、はくたんである事に…じゃあこれは…はくたんの…
「――憎い…」
(…はくたん…)
「――憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い…!!」
妖怪のはくたんは恐ろしい程だった。あの優しい彼からは想像もつかない程…
そこからまた場面が変わり…はくたんは自分を裏切った女を探し出して殺した。連れの男も一緒に…
その時のはくたんは笑っていたがすぐに無表情となり、姿を消した
(………)
どんなに孤独だっただろうか。どんなに苦しかっただろうか。どんなに寂しかっただろうか
愛する人に裏切られて殺された怨念が彼を妖怪として生かしたんだ。
何百年も独りで…嗚呼こうして見ているのに何も出来ない無力な自分が嫌いだ
…それからまた場面が変わった。はくたんは森を歩いていた。その時誰かを見つけた…岩の上で休んでいる一人の女性
「――…人間か…?」
「――……、こんにちは。今日は天気が良いですね」
あれは…伊織たん…?
二人はこの時から関わりがあったんだ…
「――何を、しているんだ?」
「――休んでいたんです。歩くと疲れるんですね」
「――当たり前だと思うが…」
「――あ、そうでしたね…私羽衣の力でいつもは飛んでいましたから」
「――っ…天女、様か…?」
「――はい。天女を勤めさせていただいています」
伊織たんは相変わらずの穏やかな感じだった。人を自然に安心させるあの微笑みは何一つ変わっていない
でも天女なら羽衣があって良いと思うけど…伊織たんにはそれがないように感じた
「――…羽衣はどうしたんだ?」
「――情けない事に、奪われてしまったんです」
「――何…?」
「――あれがないと、天界に帰れないんですが…見つからなくて」
「――…そう、か」
「――貴方は、妖ですよね?」
「――あぁ」
「――…どうしてそんなに無表情なんですか?笑わないと幸せはきませんよ」
「――…笑う…?」
それからの場面は伊織たんとはくたんの二人だった
楽しそうに微笑む伊織たんにぎこちないはくたん。でもだんだんと微笑みを見せるはくたん
嗚呼そうか…はくたんにとって伊織たんはかけがえのない存在なんだ。伊織たんが居てくれたから今のはくたんが居る…
そしてまたフッと場面が変わった。崖の上から見下ろすはくたんの姿
「――…何故だ…天女様…何故、人間と交合うのだ」
崖の下では伊織たんが知らない人間の男と仲良さそうに幸せそうに話す姿があった
そうか…天界に戻れなくなった伊織たんは…人間と交合う事に決めたんだ。そして先祖反りとして今の伊織たんが居る
「――…俺も…俺も人間と交合えば、お前と同じになれるのか…?」
「――俺はお前となら何も見失わないんだ…お前の傍に居たいんだ…」
「――…人間と交合えば…お前はまた、俺を見てくれるのだろう…?」
「――…天女様…」
パチッ
「…」
見覚えのある天井…嗚呼そっか、夢から覚めたんだ
はくたんが伊織たんのSSを引き受けた理由は何百年も前からあったんだ…
なんて悲しい夢なんだろうか…
コンコンッ
その時ノックの音がしてフラつきながら出てみると
「残夏、起きてたか?」
「…渡狸」
「…ってぉい!?なんで泣いてんだよ!」
「え…?」
「涙拭けよ!つかなんで泣いてんだよ!朝っぱらから来たからか!?」
手で頬を拭うと確かに涙が出てた
この涙はなんだろうか…はくたんの過去がとても悲しいものだったから?それとも…
伊織たんの傍に居られなく思ったから…?
その場でしゃがんでしまうと渡狸が一層慌てて
「お、ぉおい!?ど、どうしっ」
「…ごめっ…渡狸…」
「…残夏」
「これほど…自分の能力が嫌だと思った事は、ないよ…」
――ボクも、伊織たんの傍に居たい…
そう、思っては駄目かな…?――
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凄いシリアスごめんなさい。
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