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これは、凛々蝶達がラウンジで話している時の事

夏目と伊織のお話


「――でねー?その時の渡狸といったらね〜」

「ふふ。面白いですね」


夏目は正直安心した。

はくたんの話…彼の主人である伊織たんには聞かせられない話だ

伊織たんには悪いけど…このまま…―――

その時、カチャッと伊織たんは持っていたマグカップをテーブルの上に置いた


「紅茶のおかわりなら僕がつぐよ〜」

「いいえ……夏目さん。有難う」

「何が?」

「琥珀さんの事です。今ラウンジでは私に聞かれたくない話をしているのでしょう?…だから、夏目さんは私を思ってこうして話し相手をしてくれてる」

「…伊織たん…」

「…でもね…私…知ってるの。琥珀さんの事情」

「!」


驚いた。まさか伊織たんがはくたんの事を知っていたなんて…

きっとはくたんも知らないんだろうな。


「私はその事情を知った上で…彼にSSを頼んだんです……私は最低の人間です」

「どうして…」

「だって…自分の自由欲しさに、琥珀さんを利用するなんて…SSは危険な仕事です。もし琥珀さんが私を庇って力を使ってしまったらと思うと…私は…!」

「伊織たん」

「それなのに…私は知らない振りをして…!」


両手で顔を隠しながら泣く伊織たん

お互いにお互いを思ってた。でもお互い知らなくて…すれ違いが多いなぁ

ボクはただ、伊織たんの背中を摩る事しか出来ない…そんな無力な自分が嫌いだ。視えるのに何も出来ない…


「はくたんと話してきたら?」

「え?」

「お互い気持ちを知ってるのに知らないなんて…嫌じゃない?」

「夏目さん…」

「はくたんだって伊織たんの事情を知ってSSを名乗り出てくれたんだよ。なのにお互い知らないままなんて駄目でしょ?」

「っ…」

「そろそろ話が終わる頃だし…部屋の前で待ってなよ〜」

「有難う、ございます…夏目さん…!」


そういうと伊織たんは駆け足で行った

やっぱり分かり合えるのは主人とSSだから…心を癒すのも…


「ボクも伊織たんの心癒してあげたいなー……なんて」















伊織side―


「っ…伊織?」

「…琥珀さん。お話どうだった?」

「別に大した事じゃないよ。伊織はここで何してたの?」

「貴方を待ってたの」

「…私を?」

「そう…琥珀さんに謝りたくて」


琥珀さんは不思議そうに私を見てた

謝らなくちゃ…謝らなくちゃいけないの…!


「琥珀さん…ごめんなさい」

「え?」

「私…貴方の事情を知って、SSを頼んだの…」

「っ」

「自分の自由欲しさに貴方を利用してしまった…!ごめんなさいっ私…琥珀さんがどれ程苦しんできたか分かってたのに…!」

「…伊織」


琥珀さんは泣きそうな私の肩に優しく両手を置いてくれた

許してもらわなくても良い…でも謝りたかった…


「利用して良いんだよ」

「えっ…?」

「私は伊織の事情を知って、自分からSSを名乗り出た。だからこれは自分で決めた事であって伊織が謝る事は何もないんだよ」

「…琥珀さん…でも!」

「私の人生は伊織の人生…伊織が笑っててくれるなら私も笑えるし嬉しい」


琥珀さんはどうしてそこまで優しいの…?

普通は誰だって利用されてたら怒る筈なのに…私がそうであったように


「それに伊織が私に光をくれたんだ」

「私が…?」

「伊織と初めて会った時のパーティー…私は出たくなくて帰りたかった。むしろ大人達の煩い声を聞くのが嫌で凄く面白くなくて生きてる心地なんてしなかった…でも、伊織が微笑みながら私に話しかけてくれた時自分の考えが変わった」

「…」

「伊織の話は以前から聞いてたから…私よりも苦しい生活をしてるのに微笑んで…私は伊織の役に立ちたいと思った。だからSSを名乗り出たんだ」

「琥珀さん…!」

「だから今私は凄く嬉しい。こうして伊織の役に立ててるし…何より伊織の笑顔が見られてる。こんなに嬉しい事は他にはない」


琥珀さんは私よりも強く優しかった

私は只、家の印象を守ろうと無理してでも微笑んで話してたのに、琥珀さんにはそう見えてたなんて…

有難う…琥珀さん。私も琥珀さんが居てくれたから自分自身を見失わずに生きてこれたのよ


「有難う…有難うっ…琥珀さん…!」

「ほら、泣かないで。伊織が泣くと私も悲しい」

「うんっうん…!」


お互いの気持ちが知れて本当に良かった

夏目さんに感謝しないと…










ザァアアア――


「…アイツ、気づいてんのかなぁ…自分の心が妖怪に浸食されてんのー…ありゃ時間の問題だってー」

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