松尾side―





建物の中にいる女は妖怪…ならば此方も本気を出せるけど…

小川さん達が居る以上妖怪だとバレてはいけない。そうキツく三代目に言われたから…

ギュッ


「っ」

「江間ちゃんは私が守る…!」

「え」

「だって親友だもん!江間ちゃんは私から離れちゃ駄目だよ!」

「…」

「俺達も早く逃げよう。いつ追いつくか分らない」

「そうだね…眞田達とも合流しないと」


小川さんに手を引っ張られて走った

人間が…私を守る?人間が…


「小川さん」

「江間ちゃん…京都で酷い目に合ったんだよね?」

「っ」

「辛い目に合って転校してきたんだよね…」

「…」

「大丈夫。もう怖い人居ないし私たちが傍に居るから…元気出して」

「何があったかは聞きません…ですが一人で抱え込まないで下さい。溜め込むのは辛いでしょう」

「…」

「見ろ、洞窟がある。一先ずそこへ隠れよう」


何分か走っていると洞窟が見え、全員そこへ隠れた

私はまだ人間が良く分らない。今まで人間は皆、羽衣狐様に捧げる生き肝というだけしか見ていなかった…こうやって関わる事もなかった


「奥に続いているな…」

「はぁはぁ」

「…」

「松尾さんってさ」

「?」

「只無愛想にしているんじゃなくて…京都で辛い目に合ったから感情が出せなかったの?」

「それは…違うと思います」

「じゃあどうして?」

「私は…元々感情を出すのが苦手なんです。どういう時にどう出せば良いのか分らないんです」

「そうだったんだ」

「じゃあ少しずつ覚えていけば良いんだよ」

「え?」

「みんなと一緒に少しずつ覚えていこう!」


"私と共に少しずつ覚えていきましょう"

不意に小川さんとあの人の顔が重なった…あの人も同じ事を言った。あの時はそれが嬉しかった


「私は…清明様が全てでした」

「…とても大切な人だったんですか?」

「清明様が居たから私が今ここに居る…だから、清明様が自分のために死んでくれ。といわれた時死のうとしました…清明様に殺されるなら」

「それは間違っているよ。生きていればなんにでもなるけど、死んだらそこまでなんだ。やりたい事も出来なくなってしまう…言われたからって死ぬのは可笑しいよ」

「…幸村君と同じ事をあるお方にも言われました」

「誰だって同じ事を言う。俺達は必ず全員生きて帰る…そしてまた楽しい日々を過ごそう」

「うん…!」

「…はい」


私が思っていた人間とは違う。彼等には強い意志がある

諦めないで最後までやり遂げる。これが人間…私は何も知らなかったんだ

…守れるかな?三代目


スッ

「江間ちゃん?」

「私、行ってきます」

「どこにですか!?」

「あいつが探しているのは私です…だから、私は行きます」

「無茶だ!相手は妖怪なんだぞ!?」

「…松尾さん」

「江間ちゃん…行かないで…!」

「大丈夫」

「え」

「今度は、私が守ってあげる」

「っ」


洞窟を出て私は走り出した

今まで沢山の人を殺してきた私が、守れるかな?

でも、きっと三代目なら私と同じ事をするでしょう。なら私は精一杯頑張る

小川さん達を…この島を守りたい

私、頑張るから

羽衣狐様…私、頑張ります。



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