幸村side―



「江間…ちゃん?」

「…っ」


全員由紀子の言葉で松尾さんの方を見た。

彼女は微笑んでいた。いつも無表情だった子が微笑んでいる…何故だ?


「…迎えに、来てくれたのですね…?」

「松尾さん?」


でもその微笑んだ顔が尋常ではなかった

只一点を見つめるその瞳は恐怖も覚えるほど、多分それは今こんな状況だからだろうけど…


「江間ちゃん…だ、誰が迎えに…来てくれたの?」

「清明様」

「えっ」

「清明様が私を迎えに来てくれた…」

「せいめい?……まさか」

「松尾!どこ行くんだ!」

「清明様の元へ…」

「…江間…ちゃん…?」


由紀子は松尾さんを呼んでも彼女は聞く耳を持たなかった

誰もが驚いた。普段の彼女ならそんな事をしないと少なくとも俺達立海は知っている

…やはり今の彼女は異常だ


「私は清明様のためなら、地獄へいける。貴方の一部となれる…」

「江間…ちゃん…?」

「あの時は邪魔が入ってしまった…でも今なら…清明様…!」

「松尾さん!待って下さい!」

「なんでっそんな笑ってるの…?分らないよ…なんで…!!」

「…だって」

「えっ」

「私は…清明様が全てだから」

スゥッ

「ぁ…待って!江間ちゃん!!」

「松尾さん!由紀子!」

「私達も追いましょう!」


彼女は今なんて言った?

"清明様が全て"…だって…?待ってよ。安倍清明と言えば平安期に大活躍した陰陽師だろ?

なんでそんな大昔に存在した今ここに居る?可笑しい…可笑しすぎる!


「まずいぞ精市っ」

「えっ?」

「このままではっ松尾は禁止エリアに足を踏み込む事になるっ」

「そ、それって…まさか…!」

「首輪が爆発してしまうでしょう…!」

「早く止めなきゃっ!」


全力で走っても由紀子には追いついたが松尾さんには追いつかない

彼女はこんなに足が速かったのか…!毎日運動をして鍛えている俺達でさえ走っても追いつかない…!

ガッ


「っ」

「江間ちゃん危ない!!」

「!」


松尾さんは枝の間に足を引っ掛けたみたいで倒れる体制となってしまった

怪我をしてしまう…!俺達は間に合わないと思いながらも走った

すると、彼女の先から腕が伸び、トンッと彼女を受け止めたんだ。俺達は呆然とその場に立つと彼女を受け止めた人が現れた


「…?」

「走ると危ないですよ…」

「せ、清明様がっ私!行かなきゃ…!」

「ここに清明は居ません…」

「…嘘…」

「本当です…」


松尾さんは力が抜けたようにその場に腰を下ろした

彼女を説得していた人は、銀髪に黒いスーツで美形に属する顔立ち、見た目からして20代後半ぐらいだろうか…

彼女は松尾さんを自分の腕の中に収め、優しく撫でていた…俺達は只、その姿を呆然と見ていることしか出来なかった。

その時、


「おーい!!」

「っ……あっ」

「おーい!」
「部長…千歳先輩…遠山…?」

「財前!財前やないか!」

「財前無事やったんやなー!」

「おチビー!!」

「菊丸先輩…!!」


それぞれ感動の再会を果たしたようだ。4人で微笑むと俺達の間を着物姿の女性が通り過ぎ

あの、銀髪の男性の前で屈んだんだ。その姿に遠山君が「氷の姉ちゃん何しとるんや!?」と言うのが聞こえた

…氷の姉ちゃん…?しかし、俺達には彼等が話す内容が全く理解出来なかった


「お帰りなさいませ…玉藻様」

「雹麗…何があったのですか?」

「…四年前と同じことがまた…申し訳ありません。我々が居ながら島の潜入を許してしまい…」

「…」

「あらら。いろいろごたついてるね。雰囲気も変わってるし」

「…里の畏れが断ち切られたせいでしょう」

「畏れを断ち切った者の目星は?」

「申し訳ありません…只今、調査中でして……しかし、あの感覚は…清明の気もしました」

「え?清明って安倍清明?あいつって一度地獄に戻ったんじゃなかったっけ?」

「そうですね…」

「誰かが清明の術を模倣したのでしょう…」

「月夜達と合流して早急に探します」

「…よろしく頼みます」


なんだ…なんなんだ彼女等は…?

途中から現れた二人も可笑しかった。男性の方はスーツだけ普通の人とは違う雰囲気を放ち、もう1人の男性は着物姿に頭にバンダナを巻いている…彼もまた雰囲気が違う

誰なんだ…そしてここはどこなんだ…!


「…良かったわね。お仲間さんに会えて」

「雹麗さん…これ一体…」

「言ったでしょう…ここは"妖怪が暮らす島"だって…あの真ん中に屈んでいる人がここの当主様…」

「よ、妖怪だって!?」

「…そんな…妖怪は空想の存在だと…」

「人間て良い様に変えるのね…けどこうやって存在してるんだから認めちゃいなさい」


…この様子だと白石達は既に聞かされているらしい

まさか…でも、未だに信じられないんだ。妖怪が存在するなんて…









「…可哀相に…裏切られて…私が傍に居ますから、清明の元に行かないで下さい」

「……っ」



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