待つのは慣れてます。
年が明けて、早数日が経った。
作ったお節もだいたい片付いて、私は一人炬燵でぬくぬくしていた。
「…恭弥さん、まだかなぁ…」
炬燵の上に置かれるのは、蓋の閉まった鍋。
周りにはいくつかのおかずが並べられ、埃が入らないようにとそれら全てにはラップがかけられている。
冷め始めてしまっているそれらを見て、ぐったりと机に項垂れた。
ちらりと時計を見上げれば、短針はもうすぐ12を指そうとしていた。
正月からバタバタと忙しなく働いていた私の彼は、そろそろ忙しさもマシになる…はずだった。
少なくとも今日は早めに帰れると聞いていたのに。
「…日付、変わっちゃいますよー…」
うとうとし始めるくらいには、眠い。
いっそこの眠気に身を任せたい気もするけど、それをやってしまったらいろいろ終わりな気がする。
カチカチと静かに時を刻む時計の音が心地よくて、結局いつの間にやら私は夢の中へと誘われていたのだった。
「…ぇ、名前………なよ…」
「…ん…?」
「風邪引くよ、起きなって」
ゆさゆさと体が揺さぶられる。
まだハッキリままに目を開けてみれば、呆れた表情で肩に手を置く愛しい彼がいた。
「遅くなってすまなかったね。まさか起きてるとは思わなかったよ…まあ、寝落ちてたみたいだけど」
「恭弥、さん…おかえりなさい」
嬉しくて思わず頬が緩む。
へにゃりと笑えば、彼は僅かに微笑んで静かに立ち上がった。
鍋を持っていこうとしている辺り、温めようと台所に行くつもりらしい。
スーツに身を包んだままなところを見ると、本当に帰ってきてすぐのようだ。
居間から出ていこうとするその後ろ姿に、思わず体が動く。
寝起きではっきりとしない頭で、でもたしかに「離れてほしくない」と思った私は、気づいたら立ち上がって彼の背中に引っ付いていた。
「…どうしたのさ、名前」
「…まだ、傍にいてください」
「鍋、温めにいくだけだけど」
華奢に見えて、しっかりとしたその背中。
そっと手を回してみれば、彼から小さな溜め息が聞こえてきた。
「…少し、手を離してもらってもいいかい?」
呆れているわけではなさそうなその感じに、私は小さく頷くとそっと手を離す。
恭弥さんは手に持っていた鍋を机の上に下ろすと、私の方へと振り返ってくれた。
微笑んでる彼、愛しい彼のままだ。
「…恭弥さん、お帰りなさい。今日もお疲れ様でした」
「…ん、ただいま、名前」
優しい腕に、そっと抱きしめられる。
暖かさが伝わってきて、ちょっとだけ泣きそうになるのだけれど。
今だけは、どうか気付かずにいてください。
待つのは慣れてます。
(でも、たまには甘えさせてほしいななんて)
(たまにはワガママも言いたくなるのです)
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初の大人雲雀さん。
なんだかキャラがズレてる気がしなくもない←