大人っぽくない、なんて
「…お疲れ様、炎真くん」
「あっ、名前…。今帰り?」
燃えるような、赤い髪。
自分の幼馴染の姿を発見し、私は彼へと駆け寄った。
鼻先に絆創膏をつける彼は、ほんわかした笑みを浮かべた。
背が伸びた彼は、私よりも少し目線が上で不思議そうに私を見下ろしている。
「うん、そうなの。今日はみんなで公園に行ってね…」
「そうなんだ…」
「炎真くんは、外でのお仕事だったの? 沢田君達関係?」
私の問に、彼はこくりと頷いてみせた。
そんな私は、彼の仕事を知っている、数少ない一人だったりする。
もちろん、沢田君達がマフィアだってことも、ちゃんと知ってるんだ。
私は私で、とある保育園の保育士をやってたりする。
年少の子供達を受け持つ私は、今日お散歩で近くの公園に行ってきたのだ。
それを伝えれば、彼は自分のことのように嬉しそうに笑っていた。
ふにゃりと笑う彼は、なんだか子供みたいだ。
「…ふふっ」
「…? どうしたの、名前…?」
「炎真くん、子供みたいだなって、思って」
思ったことを素直に伝えれば、彼は少し頬を赤らめて全力で首を振った。
それはもう、目が回るんじゃないかってくらいに。
ほら、そういうところも子供っぽいんだよ――なんて、言ったらまた全力で否定されるだろうから言わないけど。
「名前、酷いな…」
「酷くないよー。本当のことを言ったまでだもん」
「…24で"もん"って、可愛くないよ」
「…炎真くんのが酷いと思うのは私の気のせいかな…」
「気のせいだよ、気のせい」
にっこりと笑う彼に、反論する気はさらさらなかった。
この笑い方をしているときの彼に反論をすると、ろくなことがない。
腹ぐろ…ううん、なんでもないよ炎真くん、だからこっちを見ないでほしいな。
あれ、炎真くんって読心術が使えるんだっけ…なんてことを思っていれば、彼から軽いでこぴんをお見舞いされた。
地味に、痛い。
「…顔に出てるんだよ、名前」
「…えー…読心術ってやつでしょ?」
「僕はそれ使えないから。使えるのはリボーンくらいだよ」
「リボーンって…あのリボーンさん?」
彼のその言葉に、黒いスーツをきっちり着こなす青年の姿が思い浮かんだ。
ボルサリーノを被る彼は、まだ十代とは思えないくらい大人な雰囲気を醸し出してる。
どっかの誰かさんとは大違いだ。
「…名前、また失礼なこと考えてるよね?」
「…ばれた? っていうか、地味に痛かったよ」
大袈裟に肩をすくめながらもそう言えば、彼は苦笑していた。
やりすぎた、とでも思ったのだろうか。
そんな彼も愛しく思える私は、少しずれているのかもしれない。
おでこをさすっていれば、唐突に手を掴まれた。
いきなりすぎてびっくりしていれば、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた彼と、ばっちり目が合った。
「…な、に…どうしたの…?」
「…別に? ただ、そんなに痛かったのかな、って」
掴まれた手から、彼の熱が伝わってくる。
思ったよりも温かいその手に、思わず"子供体温みたい"と思ってしまったのは許してほしい。
「僕よりも、きっと名前の方が子供っぽいよ」
「…それはありえないんじゃないかなぁ…」
掴んだ手を、そっと包み込む彼の手。
その温かさに、心まで温かくなったような感覚に陥り、なんとなく顔が綻んだ。
つられるように、彼もまた微笑む。
そして、掴まれた手をそっと引かれ、ぽすりと彼の胸に自分の体を預けることとなった。
早い鼓動が、彼もまたドキドキしているんだって、伝えてくれる。
「…炎真くん、ドキドキしてるね」
「…うるさいよ。それに、名前だって、ドキドキしてる」
掴まれた手からなのか、それとも触れてる体からなのか。
そんなことをさらりと言ってくる彼に、更にドキドキしてしまう。
こんなところはちゃんと男の子なんだよなぁ、なんて、ちょっと失礼なことを考えてしまったのは、私だけの秘密。
大人っぽくない、なんて
(ドキドキしている私の精一杯の強がり)
(どこまでも男の子らしい貴方に胸が張り裂けそうです)
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ほのぼのなのか、甘いのか、いまいち自分でも方向性がわかんなくなりました(笑)
でもこんな感じでちょっと余裕ある感じの炎真君も好きなのです…!