ドレスの女性
それから三日。
何の進展もなく、紗雫達は町に留まっていた。
聞き込みも、町民の数に限界があり聞けることはほぼ限られてきていた。
「あーあ、本格的に足止め喰らってる感じさぁ」
わざとらしく溜め息をつき、ラビがそう漏らす。
その傍らで、紗雫はただ苦笑していた。
この三日間で聞くことができたのは、せいぜい十代後半から二十代前半の青年が狙われていることと、月の見えない夜にその奇怪が起きているらしいということくらいだった。
この町でその当てはまる青年はごく数人に限られてきていた。
早く原因を突き止めなければ、余計な被害を増やしてしまうことになる。
それだけはしたくないなと、紗雫は知らないうちに眉間に皺を寄せていた。
だが、今日は朝から雨が降っている。
恐らく夜は月が見えないだろうということで、紗雫はラビと別れてごく数人いる青年の近辺を探索していた。
数人の青年達を見回ってはいるが、手紙が届くようなことはなかった。
青年達は自分達の仕事をしているだけで、これといって変わった様子はない。
「私の方は、ハズレか…?」
雨が止み、辺りがだいぶ暗くなる。
紗雫はぽつりと漏らし、近くにあった木に寄りかかる。
そうだとすると、ラビの方が当たりだったのかもしれない。
そう思い、紗雫は通信の電源を入れようとした。
――その時だった。
「あら、素敵なお兄さん。こんなところで何をしているのかしら?」
「…!」
唐突に、女性が目の前に現れた。
ドレスに身を包み傘を持つ女性は妖艶に微笑んで紗雫を真っ直ぐに見ている。
またもや間違えられたことに思わず眉が寄るが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「見かけないお方ね。旅の方?」
「まあ…そんなところだ」
「そう。旅はお一人で?」
「…いや、連れがいる」
暗がりにいる女性は、ただ笑っている様子しかわからない。
なんともいえない雰囲気を醸し出す女性に、紗雫は改めて通信機の電源をつけようとする。
しかし、女性は紗雫に近づいてくると、紗雫の手をそっと握った。
「よろしければ、私の家に来ませんか? もう夜になりますし」
手を握られたことを不思議に思うが、顔には出さない。
少し考えた紗雫は、とりあえず女性のあとについていくことにした。
しばらく歩いたところに、女性の家があった。
小さな一軒家は、どこかさびれた感じがある。
しかし、紗雫はそれについては何も言わず、黙って女性について家に入っていった。
家に入ると、まるで生活感のない部屋へと通された。
家具はところどころ壊れており、とても人が住んでいるとは思えない。
これはおかしいと思い、別の部屋へと行ってしまった女性を待っている間にゴーレムを窓の隙間から外へと出した。
「…頼む、ラビに連絡を」
紗雫の持つゴーレムは映像記憶機能のついた便利なゴーレムだ。
ここら周辺の映像は一通り撮ってある。
きっとラビなら探し出してくれると信じ、紗雫は懐に手を入れた。
「…あら、お座りになっていればよろしかったのに」
「気遣いだけありがたくいただいておく」
気づいたら、部屋の扉の脇に女性が立っていた。
紗雫が静かにそう返せば、女性はにっこりと笑った。
そんな女性に、紗雫の眉が寄る。
懐に入れた手に力を込めれば、女性が不思議そうに紗雫を見ていた。
「…一つ、聞きたいことがある」
「ええ、何かしら?」
「最近、この町の青年が次々に消えていく事件を知っているか?」
紗雫のその問いに、女性の笑みが一瞬で消える。
その反応に、紗雫は一つの確信を得た。
「…お前、AKUMAと関係があるんだな」
睨みつけるように、紗雫が呟く。
女性は口元を静かに吊り上げ、高らかに笑い出した。
「アハハハハハハハ! 勘が良い子は困りますわね、ほんと」
「…町の青年達を狙ったのはなぜだ?」
「なぜもなにも、私の美貌のために、彼らを喰らっただけにすぎませんわ」
「喰らった…ということは…」
「フフフ…ええ、私の力の源になってもらったんですのよ。おかげで、もうすぐ私はLevel.3に…!」
真っ直ぐに、女性の視線が紗雫に向く。
本能的に危険を感じた紗雫は、女性が動くと同時に窓を割って外へ出た。
早く早く、
(ラビが来ると信じて)
(紗雫は町の中をただ走り抜けた)
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