最愛なる貴女へ




寒さがほんのり厳しい、そんな日のこと。
いつも通り、自分に宛てがわれた部屋で目が覚める。
ぼんやりと起きながらもカーテンを開けてみれば、外には雪がはらりと降っていた。

「…雪、か…」

あまり、こちらの世界に来てからは見なかった雪景色に、ほうっと息が漏れる。
屋根にはうっすらと雪が積もり、街に行き交う人は寒さに早足で道を歩いていた。
自分がいた世界も、こんな感じだったかもしれないと考えていれば、コツコツとノックの音がした。

「…はい」
「俺だけど、入ってい?」

この時間にしては珍しい、心地よいテノールが扉越しに聞こえてくる。
短く返事を返せば、扉を開けた向こうにティキがいた。
いつも通り、シャツにラフな黒いズボン。
ただ違うのは、その腕に抱えられた綺麗な赤の薔薇の花束。

「…どうしたんだ、そんなに大量の薔薇なんて持って」
「…あれ、紗雫はバレンタイン知らねぇ?」

ティキのその言葉に、今日はそういえば2月14日だったかと、ぼんやりそんなことを思う。
こちらの世界に来てからあまり日付を把握していなかったけど、まさか今日だとは思わなかった。
にこやかに笑うティキは、抱える薔薇の花束をそっと私へと差し出してきた。

「Happy Valentine,紗雫」
「…キザなことをするんだな」
「んなこと言うなって。俺からの気持ちなんだからさ」

花束からは、ふんわりと薔薇のいい香りがする。
そんなことを思いながらもティキを見上げれば、楽しそうに笑っていた。

「紗雫さ、薔薇の花言葉は知ってるか?」
「いろいろあるっていう説は聞いたことがあるけど…」

決して多過ぎない、薔薇の花。
おもむろにティキが私の腕から花束を取ると、一本一本花束から薔薇を抜いていく。
一本、二本、三本と抜いていき、最後の一本を抜いたティキは「11」と呟いた。

「俺、こういうのそんな詳しい訳じゃねーんだけど。薔薇の花って本数で意味が変わるらしい。十一本は…――最愛、なんだと」

愛おしげに見つめてくるティキから、何故か目が離せなくなる。
言ってることもなってることも恥ずかしいのに、どこか嬉しいと思ってしまう自分がいて、余計に照れくさくなった。

「…つくづく恥ずかしいやつだな、お前は」
「その反応は照れ隠しって受け取ってもいいのか?」

余裕めいた微笑みが、なんとも恨めしい。
悔しいから、こっそりと心の中で感謝の気持ちを伝えることにしよう。





最愛なる貴女へ
(好きだけじゃ伝えきれない)
(贈る言葉は愛の言葉)
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ふと思いついた、番外編バレンタインネタです!
ティキがなんか甘い…書いてて砂糖吐きそうでした←



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