イノセンスの適合者




紗雫が教団に入った後、ラビと報告をした。
もちろん、紗雫の話も踏まえてだ。

「なるほどねー。じゃあ、紗雫君には記憶がないわけだ」
「…そうなります」
「まあでも、こうして出会えたのも何かの縁だし、これからよろしく頼むよ。僕はコムイ・リー。黒の教団の室長をしている」
「私は妹のリナリー・リーよ。兄さん達の手伝いとかをしてるの」
「化学班班長のリーバー・ウェンハムだ。よろしく頼む」
「…紗雫だ。役に立つかはわからないけど、よろしくお願いします」

コムイとリナリー、そしてリーバーに、紗雫は軽く挨拶を済ます。
頭を下げれば、慌てたようにリナリーに声をかけられた。

「そんなに改まらなくてもいいのよ、紗雫君!」
「あの…一つ、言っておきたいことがあるんですけど…」

リナリーの言葉に、紗雫は少し眉間に皺を寄せる。
周りのメンバーを見渡せば、彼らは皆不思議そうな顔をして紗雫を見てきた。

「…私、女なので」
「「「えぇぇっ!?」」」
「で、でも、ラビからは男の子って…」
「…元々こんな話し方してるし、ラビには性別なんて一言も聞かれなかったから」
「ご、ごめんさ…」

紗雫は元々中性的な顔立ちをしている。
ほどほどにある身長に短髪の為、見間違えられても当然かもしれない。
それでも、全員に間違えられていたというその事実に、紗雫は苦笑した。



あれからラビに平謝りされ、紗雫はコムイととあるところへと行くこととなった。

「―――さてと、じゃあちょっと行ってくるよ」
「紗雫、びっくりすんなよー」
「…? ああ、わかった」

ラビの言葉に引っかかりを覚えるも、紗雫は小さく頷くとコムイのあとをついていく。
その後ろ姿を、ラビはにやにやとした表情で、リナリーとリーバーはなんとも言えない表情で見送っていったのだった。








コムイのあとをついていき、紗雫は三角形のエレベーターへと乗り込んだ。
今からいったい何が起きるのだろうとコムイに問いかけるが、彼はただ笑っていて答えてはくれなかった。
まるで、教壇に来る前のラビのようだと、紗雫はコムイにばれないように小さく溜め息をついた。
下へと下りている間になにやら声が聞こえていたが、紗雫はそれを聞き流しただ黙ってコムイの後ろに立つ。

しばらくすると、エレベーターは下へと到着した。
コムイに続いていけば、橋のような場所の真ん中でコムイが止まる。
それに倣うように、紗雫もまた足を止めた。

「やあ、ヘブラスカ」
「…コムイ…か…。新しい…イノセンスか…?」

コムイの目線の先を辿れば、そこには大きな何か―――女性と思われる人物がいた。

「いやあ、実はちょっと聞きたいっていうか調べてほしいっていうか、うん、まあそんなことがあってさ」
「…その…イノセンスのことか…」

女性はコムイの持つ何かを見て、静かにそう言った。
紗雫は気づいていなかったが、コムイはいつの間にかラビが持ってきたイノセンスを持ってきていたのだ。
そのイノセンスを見て、それから女性は紗雫の方に視線を向けてきた。

「実は、適合はしていないんだけど彼女がこれを持っていたらしいんだ。もしかして、適合者なのかなと思ってね」

コムイのその言葉に、紗雫は改めてイノセンスを見た。
懐かしいを思ったその感覚は、未だ消えてはいない。
しかし、自分がそれの適合者なのかと聞かれれば、そうではないのではないかという思いがあった。

―――否、そうであってほしくないという思いも少なからずあった。

ラビから聞いた話では、イノセンスの適合者となったエクソシストはほぼ強制的に戦場へと赴かなければならない義務があるという。
ただでさえ記憶のない、自分が何者かすらわかっていない今の紗雫には、その立場と責任はとてもではないが背負えるものではないと思っていた。

そんなことを考えていれば、コムイの手から女性へとイノセンスが渡る。
女性はイノセンスを自分の方に寄せ、しばらくその場には沈黙が流れた。
しんとするその場に、紗雫はいたたまれなさを感じる。
どうしようかと視線をさ迷わせていると、女性が静かに口を開いた。

「これが…お前のものなのかは…今はわからない…」
「やっぱりそうだよねー」
「だが…これはお前が持っていると…いい………イノセンスは…たしかにお前に…反応している…」

そう言うと、女性はイノセンスを紗雫の目の前へと差し出した。
困惑しながらも、紗雫はそれを受け取る。

「私は…ヘブラスカ………この先どうなるか…まだわからないが…何かあれば…ここに来るといい…」
「…ありがとう、ヘブラスカ」

女性―――ヘブラスカの言葉に、紗雫は僅かに微笑んだ。
そのやりとりにコムイもまた微笑み、そのままコムイと紗雫は上へと戻っていったのだった。





未知数
(これからどうなるのだろうと)
(この先の未来を思った)



prevnext

[TOP]

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -