竹林の中にて
アジア支部を出て、紗雫はイノセンスを発動させ北東へ向けて宙を走っていた。
段々近づいていくその何かを視界に捉えた瞬間、紗雫は驚きに目を見開いた。
「あれが…!」
白く巨大な何か。
そして、それに攻撃を仕掛ける多数のAKUMA達。
それはとてつもなく異様な光景だった。
――あの白いのが、咎落ちした者なのか…?
同じAKUMA同士で殺し合いをするのはあまり見たことがない。
だとしたら、あの白い物体はおそらく先程言っていた咎落ちした誰かなのだと考えられる。
少しでも早く近づくために、紗雫は一先ずAKUMAの数を減らそうと懐に手を入れた。
宙を走りながら、紐を取り出す。
そして、真っ直ぐにAKUMA達を見据えた。
「転換 打刀。――第二解放 空炎乱舞」
転換した刀に炎を纏わせる。
それを片手に、近くにいたAKUMAを次々と刀で破壊していった。
「ナンナンダ、コイツ…!」
「エクソシストダ!」
数体のAKUMAが紗雫に気づき、次々と襲い掛かってくる。
すかさず紗雫はもう一本の紐を懐から取り出した。
「打刀」
取り出した紐も刀に転換させる。
もう一本の刀にも、火を纏わせた。
二本になった刀を構え、再びAKUMAを切りつけていく。
数体のAKUMAを破壊したところで、白い物体がいきなり光を放った。
「なんだ…!?」
光は段々と大きくなり、辺りの地面が壊れていく。
そして、地面が浮き上がり白い物体の周りを囲んでいった。
あまりの風に、紗雫は思わず地上へと下りる。
そして、白い物体を見上げた。
「くそ、あれじゃ近づくことも…」
ふと、見上げた先に人が見えた。
よく目を凝らしていると、その人物が誰なのかが、はっきりとわかった。
「…アレン…?」
そう、それはたしかにアレン・ウォーカーその人だった。
落ちていく彼は、光る白い物体へと真っ直ぐに落ちていった。
近くには金色に光る物体、おそらくティムキャンピーもついている。
――どうするんだ、アレンは…!?
風が強く、自分は近づくこともできない。
それどころか、覆う風に呑まれそうにすらなる。
なんとか飛ばされないようにと、近くにあった木を掴み、紗雫はそれが落ち着くのをひたすらに待った。
それから、数分後。
「崩れていく…?」
それは、光が収まったかと思えば崩れていく。
舞っていた地面の欠片も、それに伴い地へと落ちていった。
なんとか目を凝らしアレンを探すが、どうにも見つからない。
そして、白い物体は完全に姿を消した。
「イノセンス、イノセンス!」
「探セ探セ!」
多くのAKUMA達が、一斉に散り散りになっていった。
それを見て紗雫は眉間に皺を寄せる。
竹林の傍にいた紗雫は、アレンを探すために竹林を歩き出したのだった。
しばらく歩いていくが、アレンらしき人影は全く見つからない。
嫌な予感が、紗雫を支配していた。
「どこだ、アレン…」
先程までの騒動とは逆に、竹林の中はあまりにも静かだった。
だいぶ辺りは暗くなり、よく見なければ周りの状況すら把握し辛い。
二つ以上の転換はできないため、紗雫はとりあえず刀を元の紐へと戻した。
そして、近くに落ちていた竹の切れ端を拾い、それをペンライトのようなものへと転換した。
光を点し、辺りを照らす。
先程よりは見やすくなったものの、それでもアレンは近くにいない。
嫌な汗が、頬を伝った。
――なんなんだ、さっきから…。
それは、まるで恐怖のような感情。
どうしようもない感情に紗雫が眉間に皺を寄せた、その時だった。
「…あれ、いつかのお嬢さんじゃないか」
唐突に、正面から人が歩いてきた。
それはあまりにも見覚えのある人物で、紗雫は手に持っていたペンライトを地面に落とす。
一瞬で、それは竹へと戻った。
「…ティキ…ミック…」
「おっ、名前を覚えててもらえるなんて光栄だな。…久しぶりと言っておこうか、紗雫」
その誰か――ティキは、正面に立つ紗雫にそう言って微笑みかけた。
それに対し、紗雫は表情を険しくさせる。
そして、懐へと手を伸ばした。
「こんなところで会えるとはな。人探しか?」
「…お前こそ…」
ただにこやかに笑うティキに、紗雫はそう言ってティキを睨んだ。
そんな紗雫の視線に、ティキは一歩紗雫に向かって歩んできた。
「俺かー。俺は、そうだな…人探しと暗殺」
ティキのその言葉に、紗雫は目を見開いた。
今、この男はなんと言ったのだろうか、と。
その言葉を理解した瞬間、紗雫は懐から取り出した紐を、すかさず刀へと転換させた。
「…っ、まさか、アレンを…!」
ティキに向けて刀を振るも、それは空を切った。
紗雫が転換させた瞬間に、ティキが宙へと飛び上がっていたからである。
紗雫はそれを見て、自分も地を蹴りティキの元へと飛び上がった。
「答えろ…!」
「なんだ、ちょっと遅かったな。少年は…――俺が殺したよ」
妖艶に微笑むティキに、紗雫は再び斬りかかった。
しかし、先程同様にそれは空を切り、一瞬で近づいてきたティキに腕を掴まれ紗雫は動きを止めた。
「…っ」
「怒りに身を任せてちゃ、切れるもんも切れないぜ?」
「う、るさい…!」
悔しさに、紗雫の顔が歪んだ。
黒い彼との再会
(意味深に微笑むティキに)
(紗雫はただ彼を睨みつけるしかなかった)
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